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     巻十七  雑歌上

 0863  我が上に 露ぞ置くなる 天の河 と渡る舟の 櫂のしづくか  読人知らず
 0864  おもふどち まとゐせる夜は 唐錦 たたまく惜しき ものにぞありける  読人知らず
 0865  うれしきを 何につつまむ 唐衣 袂ゆたかに たてと言はましを  読人知らず
 0866  かぎりなき 君がためにと 折る花は 時しもわかぬ ものにぞありける  読人知らず
 0867  紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る  読人知らず
 0868  紫の 色濃き時は めもはるに 野なる草木ぞ 別れざりける  在原業平
 0869  色なしと 人や見るらむ 昔より 深き心に 染めてしものを  近院右大臣
 0870  日の光 藪しわかねば いそのかみ ふりにし里に 花も咲きけり  布留今道
 0871  大原や をしほの山も 今日こそは 神世のことも 思ひいづらめ  在原業平
 0872  天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ  良岑宗貞
 0873  主や誰 問へど白玉 言はなくに さらばなべてや あはれと思はむ  河原左大臣
 0874  玉だれの こがめやいづら こよろぎの 磯の浪わけ 沖にいでにけり  藤原敏行
 0875  かたちこそ み山隠れの 朽ち木なれ 心は花に なさばなりなむ  兼芸法師
 0876  蝉の羽の 夜の衣は 薄けれど 移り香濃くも 匂ひぬるかな  紀友則
 0877  遅くいづる 月にもあるかな あしひきの 山のあなたも 惜しむべらなり  読人知らず
 0878  我が心 なぐさめかねつ 更級や をばすて山に 照る月を見て  読人知らず
 0879  おほかたは 月をもめでじ これぞこの つもれば人の 老いとなるもの  在原業平
 0880  かつ見れば うとくもあるかな 月影の いたらぬ里も あらじと思へば  紀貫之
 0881  ふたつなき ものと思ひしを 水底に 山の端ならで いづる月影  紀貫之
 0882  天の河 雲のみをにて はやければ 光とどめず 月ぞ流るる  読人知らず
 0883  あかずして 月の隠るる 山もとは あなたおもてぞ 恋しかりける  読人知らず
 0884  あかなくに まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ  在原業平
 0885  大空を 照りゆく月し 清ければ 雲隠せども 光けなくに  尼敬信
 0886  いそのかみ ふるから小野の もとかしは もとの心は 忘られなくに  読人知らず
 0887  いにしへの 野中の清水 ぬるけれど もとの心を 知る人ぞくむ  読人知らず
 0888  いにしへの しづのをだまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり  読人知らず
 0889  今こそあれ 我も昔は 男山 さかゆく時も ありこしものを  読人知らず
 0890  世の中に ふりぬるものは 津の国の 長柄の橋と 我となりけり  読人知らず
 0891  笹の葉に 降りつむ雪の うれを重み もとくだちゆく 我がさかりはも  読人知らず
 0892  大荒木の もりの下草 おいぬれば 駒もすさめず かる人もなし  読人知らず
 0893  かぞふれば とまらぬものを 年といひて 今年はいたく 老いぞしにける  読人知らず
 0894  おしてるや 難波の水に 焼く塩の からくも我は 老いにけるかな  読人知らず
 0895  老いらくの 来むと知りせば 門さして なしと答へて あはざらましを  読人知らず
 0896  さかさまに 年もゆかなむ とりもあへず すぐる齢や ともにかへると  読人知らず
 0897  とりとむる ものにしあらねば 年月を あはれあなうと すぐしつるかな  読人知らず
 0898  とどめあへず むべも年とは いはれけり しかもつれなく すぐる齢か  読人知らず
 0899  鏡山 いざ立ち寄りて 見てゆかむ 年へぬる身は 老いやしぬると  読人知らず
 0900  老いぬれば さらぬ別れも ありと言へば いよいよ見まく ほしき君かな  業平朝臣母
 0901  世の中に さらぬ別れの なくもがな 千代もとなげく 人の子のため  在原業平
 0902  白雪の 八重降りしける かへる山 かへるがへるも 老いにけるかな  在原棟梁
 0903  老いぬとて などか我が身を せめきけむ 老いずは今日に あはましものか  藤原敏行
 0904  ちはやぶる 宇治の橋守 なれをしぞ あはれとは思ふ 年のへぬれば  読人知らず
 0905  我見ても 久しくなりぬ 住の江の 岸の姫松 幾世へぬらむ  読人知らず
 0906  住吉の 岸の姫松 人ならば 幾世かへしと 問はましものを  読人知らず
 0907  梓弓 磯辺の小松 たが世にか よろづ世かねて 種をまきけむ  読人知らず
 0908  かくしつつ 世をやつくさむ 高砂の 尾上に立てる 松ならなくに  読人知らず
 0909  誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに  藤原興風
 0910  わたつみの 沖つ潮あひに 浮かぶ泡の 消えぬものから 寄る方もなし  読人知らず
 0911  わたつみの かざしにさせる 白妙の 浪もてゆへる 淡路島山  読人知らず
 0912  わたの原 寄せくる浪の しばしばも 見まくのほしき 玉津島かも  読人知らず
 0913  難波潟 潮満ちくらし 雨衣 たみのの島に たづ鳴き渡る  読人知らず
 0914  君を思ひ おきつの浜に 鳴くたづの 尋ねくればぞ ありとだに聞く  藤原忠房
 0915  沖つ浪 たかしの浜の 浜松の 名にこそ君を 待ちわたりつれ  紀貫之
 0916  難波潟 おふる玉藻を かりそめの 海人とぞ我は なりぬべらなる  紀貫之
 0917  住吉と 海人は告ぐとも 長居すな 人忘れ草 おふと言ふなり  壬生忠岑
 0918  雨により たみのの島を 今日ゆけど 名には隠れぬ ものにぞありける  紀貫之
 0919  あしたづの 立てる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 浪かとぞ見る  紀貫之
 0920  水の上に 浮かべる舟の 君ならば ここぞとまりと 言はましものを  伊勢
 0921  みやこまで ひびきかよへる からことは 浪のをすげて 風ぞひきける  真静法師
 0922  こき散らす 滝の白玉 拾ひおきて 世の憂き時の 涙にぞかる  在原行平
 0923  ぬき乱る 人こそあるらし 白玉の まなくも散るか 袖のせばきに  在原業平
 0924  誰がために 引きてさらせる 布なれや 世をへて見れど とる人もなき  承均法師
 0925  清滝の 瀬ぜの白糸 くりためて 山わけごろも 織りて着ましを  神退法師
 0926  たちぬはぬ 衣着し人も なきものを なに山姫の 布さらすらむ  伊勢
 0927  主なくて さらせる布を 七夕に 我が心とや 今日はかさまし  橘長盛
 0928  落ちたぎつ 滝の水上 年つもり 老いにけらしな 黒き筋なし  壬生忠岑
 0929  風吹けど ところも去らぬ 白雲は 世をへて落つる 水にぞありける  凡河内躬恒
 0930  思ひせく 心の内の 滝なれや 落つとは見れど 音の聞こえぬ  三条町
 0931  咲きそめし 時よりのちは うちはへて 世は春なれや 色の常なる  紀貫之
 0932  かりてほす 山田の稲の こきたれて なきこそわたれ 秋の憂ければ  坂上是則

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