Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十六

 01  02  03  04  05  06  07  08  09  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20 
     巻十六  哀傷歌

 0829  泣く涙 雨と降らなむ わたり川 水まさりなば かへりくるがに  小野篁
 0830  血の涙 落ちてぞたぎつ 白川は 君が世までの 名にこそありけれ  素性法師
 0831  空蝉は 殻を見つつも なぐさめつ 深草の山 煙だにたて  僧都勝延
 0832  深草の 野辺の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け  上野岑雄
 0833  寝ても見ゆ 寝でも見えけり おほかたは 空蝉の世ぞ 夢にはありける  紀友則
 0834  夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな  紀貫之
 0835  寝るが内に 見るをのみやは 夢と言はむ はかなき世をも うつつとは見ず  壬生忠岑
 0836  瀬をせけば 淵となりても 淀みけり 別れを止むる しがらみぞなき  壬生忠岑
 0837  先立たぬ くいのやちたび かなしきは 流るる水の かへり来ぬなり  閑院
 0838  明日知らぬ 我が身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ  紀貫之
 0839  時しもあれ 秋やは人の 別るべき あるを見るだに 恋しきものを  壬生忠岑
 0840  神無月 時雨に濡るる もみぢ葉は ただわび人の 袂なりけり  凡河内躬恒
 0841  藤衣 はつるる糸は わび人の 涙の玉の 緒とぞなりける  壬生忠岑
 0842  朝露の おくての山田 かりそめに うき世の中を 思ひぬるかな  紀貫之
 0843  墨染めの 君が袂は 雲なれや 絶えず涙の 雨とのみ降る  壬生忠岑
 0844  あしひきの 山辺に今は 墨染めの 衣の袖は ひる時もなし  読人知らず
 0845  水の面に しづく花の色 さやかにも 君が御影の 思ほゆるかな  小野篁
 0846  草深き 霞の谷に かげ隠し 照る日の暮れし 今日にやはあらぬ  文屋康秀
 0847  みな人は 花の衣に なりぬなり 苔の袂よ 乾きだにせよ  僧正遍照
 0848  うちつけに さびしくもあるか もみぢ葉も 主なき宿は 色なかりけり  近院右大臣
 0849  郭公 今朝鳴く声に おどろけば 君に別れし 時にぞありける  紀貫之
 0850  花よりも 人こそあだに なりにけれ いづれを先に 恋ひむとか見し  紀茂行
 0851  色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき  紀貫之
 0852  君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見え渡るかな  紀貫之
 0853  君が植ゑし ひとむら薄 虫の音の しげき野辺とも なりにけるかな  御春有輔
 0854  ことならば 言の葉さへも 消えななむ 見れば涙の 滝まさりけり  紀友則
 0855  なき人の 宿にかよはば 郭公 かけて音にのみ なくとつげなむ  読人知らず
 0856  誰見よと 花咲けるらむ 白雲の たつ野とはやく なりにしものを  読人知らず
 0857  かずかずに 我を忘れぬ ものならば 山の霞を あはれとは見よ  読人知らず
 0858  声をだに 聞かで別るる たまよりも なき床に寝む 君ぞかなしき  読人知らず
 0859  もみぢ葉を 風にまかせて 見るよりも はかなきものは 命なりけり  大江千里
 0860  露をなど あだなるものと 思ひけむ 我が身も草に 置かぬばかりを  藤原惟幹
 0861  つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを  在原業平
 0862  かりそめの 行きかひぢとぞ 思ひこし 今はかぎりの 門出なりけり  在原滋春

前巻    次巻
 01  02  03  04  05  06  07  08  09  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20