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       方たがへに人の家にまかれりける時に、あるじのきぬをきせたりけるを、あしたに返すとてよみける 紀友則  
876   
   蝉の羽の  夜の衣は  薄けれど  移り香濃くも  匂ひぬるかな
          
        詞書は 「「方たがえ」のためにある人の家に行った時に、その主が衣を貸してくれ、それを次の朝に返す時に詠んだ」歌ということ。 「方たがへ」とは、行く先の方角が陰陽道で言う 「天一神」(なかがみ)がいるとされる向きである場合、前の晩に他所で一泊して方角を変えてから出かけること。

  
お借りした夜の衣は薄いものでしたが、移り香は濃く匂っていました、という歌。相手は女性であると思われるが、今一つ意図がわからない歌である。

  「蝉の羽」は 「薄い」ということを導くためのもので、特に「移り香」と連係するものではなく、単に 「薄い−濃い」の関係である。 「夏衣」とは明確に言っていないので、考えようによっては微妙なところであるが、一応 「蝉」と言うからには季節は夏なのであろう。親身になって世話をしてくれた、ということを「移り香が濃く衣に匂う」ということで表現しているのかもしれない。 「匂ふ」という言葉を使った歌の一覧は 15番の歌のページを参照。ちなみに、友則には次のような恋歌もある。

 
715   
   蝉の声   聞けばかなしな  夏衣    薄くや 人の  ならむと思へば
     

( 2001/11/13 )   
(改 2004/01/29 )   
 
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