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竜田川  錦おりかく  神無月  時雨の雨を  たてぬきにして

遠鏡   立田川ヘ紅葉ノ散テ流レルトコロヲ見レバ  時雨ノ糸ノヤウナ雨ヲ  竪横ノ糸ニシテ機ヘカケテ錦ヲ織ルト見エル

315

山里は  冬ぞさびしさ  まさりける  人目も草も  枯れぬと思へば

遠鏡   山里ハイツデモサビシイガ  冬ハサベツシテサビシサガマシタワイ  人ノコヌコトヲ人目ガカレルト云ヂヤガ  今マデハタマ／＼見エタ  人目モカレル  草モ枯レタニヨツテサ かれぬと思へばゝたゞかれぬればといふに同じ思ふに意なし此の例多し

316

大空の  月の光し  清ければ  影見し水ぞ  まづこほりける

遠鏡   昨夜ノソラノ月ガキツウサエタニヨツテ  ソノ影ノ見エタ水ガサ  ケサハアレアノヤウニ  マヅ一バンニコホツタワイ （千秋云。三の句。菅家万葉朗詠などに。寒ければとある。その方まさりて聞ゆ。）

317

夕されば  衣手寒し  み吉野の  吉野の山に  み雪降るらし

遠鏡   此コロハユフカタニナレバ  イカウ寒イ  マ一ツ着ニヤナラヌ  コレハモウ吉野山ヘハ雪ガフツタサウナ

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今よりは  つぎて降らなむ  我が宿の  薄おしなみ  降れる白雪

遠鏡   コレカラハツヾイテ段々フレカシ  コチノ庭ノスヽキヲオシナビカシテツモツタアノ雪ノケシキ  キツウオモシロイ

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降る雪は  かつぞけぬらし  あしひきの  山のたぎつ瀬  音まさるなり

遠鏡   山ハ雪ガフルヤウスヂヤガ  フルウチニ  ハヤ片一方カラサ  キエルサウナ  ソノ雪ドケト見エテ  アノ山カラ流レオチル川ノ水ガマシテ  音ガアレ高ウナツタワ

320

この川に  もみぢ葉流る  奥山の  雪げの水ぞ  今まさるらし

遠鏡   此ノ川ヘ紅葉ガ流レル  コレマデハ流レテハコナンダガ  今アノヤウニ流レテキタノハ  川上ノ奥山ノ雪ドケデ水ガサマシタサウナ  ソレデ川上ニヨドンデアツタ木ノ葉ガ今マ流レテクルヂヤ

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ふるさとは  吉野の山し  近ければ  ひと日もみ雪  降らぬ日はなし

遠鏡   此吉野ノ里ハ高山ガ近イニヨツテ  ケガナ一日モ雪ノフラヌ日ト云フハナイ

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我が宿は  雪降りしきて  道もなし  踏みわけてとふ  人しなければ

遠鏡   コチノ庭ハ  イチメンニ雪ガツモツタマヽデ道モナイ  フミ分テ尋ネテクル人ガナイヂヤニヨツテサ  通ツテクル人ガアラウナラセメテ道ハシレテアラウニ

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雪降れば  冬ごもりせる  草も木も  春に知られぬ  花ぞ咲きける

遠鏡   冬ガレテマダメモデヌ草モ木モ  雪ガフレバ  春ニハサタナシノ花ガ咲タワイ  ソウタイ花ハ春ニナツテ咲クモノヂヤニ

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白雪の  ところもわかず  降りしけば  巌にも咲く  花とこそ見れ

遠鏡   雪ガ  ドコト云コトナシニ  タヒラ一メンニツモツタレバ木デハナウテ花ノ咲マイ岩ヘモサ花ガ咲タト見エル （千秋云。志賀の山ごえは。花の名どころなれば。春の花のことを思ひて。よめるならんか。）

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み吉野の  山の白雪  つもるらし  ふるさと寒く  なりまさるなり

遠鏡   今夜ハ吉野山ノ雪ガイカウツモルサウナ  ソレデ此ヘンマデガ此ノヤウニダン／＼サムサガマサルヂヤ

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浦近く  降りくる雪は  白浪の  末の松山  越すかとぞ見る

	遠鏡   カノ奥州ノ末ノ松山ト云所ハ古歌ニ浪モコエナントヨンデアツテ名ノ高イコトヂヤガ  今カウ海辺近イ所ヘ雪ガフツテクルケシキハ  白イ浪ガマコトニソノ末ノ松山ヲサコエルノカト見エル 余材。此の初句を末の松山のあたりの。浦と見たるにや。ひがこと也。この浦はいづくにまれ。海の浦なり。
	余材   ．．．或抄に浦ちかくふりくるとは浦ちかくてみる雪なり松山は思ひよそへていへるなりとあるはいつくの浦にもあれちかく降くる雪を見て彼松山に浪のこさんするやうもかくこそとおもひやる心なりとなりいはれす後撰集に   浦ちかくたつ秋霧はもしほやく 煙とのみもみえわたりける 此歌も今の発句とおなしいりほかなる説を求むへからす

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み吉野の  山の白雪  踏みわけて  入りにし人の  おとづれもせぬ

遠鏡   吉野山ヘ深イ雪ヲフミ分テコモツタ人ガ  ソノ後一向ニオトヅレモナイガ  雪ガ段々フカウナツテ便リモシラレヌコトカ  イヨ／＼無事ナガ  寒気ノツヨイトコロナレバモシワヅラハレナドハセヌカ  アンジラルヽワイ

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白雪の  降りてつもれる  山里は  住む人さへや  思ひ消ゆらむ

遠鏡   雪ノフツテ段々フカウツモツタ山里ハ  サゾヤ  寒ウハアラウシ  サビシウハアラウシ  サウ云所デハ  住デ居ル人マデガ  心ノキエイルヤウニ思フデガナアラウ  雪ハシマイニ消ルモノヂヤガ  ソノ雪ノヤウニサ  心マデガ

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雪降りて  人もかよはぬ  道なれや  あとはかもなく  思ひ消ゆらむ

遠鏡   雪フリニカウシテ居ル我心ハ  タトヘバ此ノヤウニ雪ガフツテ  人ドホリモタエテ  足跡モナウナツテソコト云筋モシレヌヤウニ消テシマウ道ノヤウナ物ヂヤヤラ  カウシテ居ル心ガキエルヤウナ （千秋云。三の句の。なれやと。結句のらんとのあつかひ。この訳をよく味ひてしるべし。）

330

冬ながら  空より花の  散りくるは  雲のあなたは  春にやあるらむ

遠鏡   マダ冬ナガラ空カラアノヤウニ花ノ散テクルハ  アノ雲ノアチラハモウ春ヂヤカシラヌ

331

冬ごもり  思ひかけぬを  木の間より  花と見るまで  雪ぞ降りける

遠鏡   今マハ冬ガレデ  マダメモデヌアノ木ナレバ  思ヒガケモナイニ  枝ノアヒダカラ  花ノチルト見エルホドニサ  雪ガフルワイ

332

朝ぼらけ  有明の月と  見るまでに  吉野の里に  降れる白雪

遠鏡   カウ夜ノグワラリツトアケタ時ニ見レバ  テウド有明ノ月ノ残ツタ影ト見エルホドニ吉野ノ里ヘ雪ガフツタ （千秋云。朝ぼらけの。ぼらけは。朗明[ほがらかけ]のつゞまりたる也集中恋三にしのゝめのほがら／＼と明ゆけばと云々是也。）

333

消ぬがうへに  またも降りしけ  春霞  立ちなばみ雪  まれにこそ見め

遠鏡   此ノ雪ハマダキエヌウヘヽモ又ツヾイテフリカサナレ  オツヽケ春ガキテ霞ノタツ時分ニナツタナラ  マレニコソフリモセウケレ  度々ハ見ラレマイホドニ

334

梅の花  それとも見えず  久方の  あまぎる雪の  なべて降れれば

遠鏡   雪ガオシナメテドコモカモフツタレバ  梅ノ花ト見エヌ  同ジ白サヂヤニヨツテ

335

花の色は  雪にまじりて  見えずとも  香をだに匂へ  人の知るべく

遠鏡   花ノ色ハ雪ニマジツテ  ソレト分レテ見エズトモ  人ガ梅ノ花ヂヤトシレルヤウニ  セメテ香ナリトモ  ハツキリトシレルヤウニ  ニホヘ

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梅の香の  降りおける雪に  まがひせば  誰かことごと  わきて折らまし

遠鏡   梅ノ花ハ色ハ白ウテ雪ニマガウガ  モシ香マデガ  色ノヤウニツモツタ雪ニマガウナラバ  誰レガ雪ト梅ノ花トヲヨウベツ／＼ニ見分テ折ウゾイ  タレモエ見分ケハスマイ  香ガマガハネバコソ

337

雪降れば  木ごとに花ぞ  咲きにける  いづれを梅と  わきて折らまし

遠鏡   雪ガフレバ  何ンノ木モミナ花ノサイタヤウナワイ  ドレヲ梅ヂヤト見分テ  ヲラウゾドウモ見分ケニクイ

338

我が待たぬ  年はきぬれど  冬草の  枯れにし人は  おとづれもせず

遠鏡   コチガマチモセヌ来年ノ年ハモウ近ウキタケレドモ  今ジブンノ草ノヤウニカレテヨソヘインダ人ハ  コチガコレホド待ツノニ  マダカヘツテコヌノミナラズ  ネカラオトヅレモセヌ  カレルト云ハヨソヘイテヨリツカヌコトヂヤゾイ

339

あらたまの  年の終りに  なるごとに  雪も我が身も  ふりまさりつつ

遠鏡   年ノ終リニナルタビゴトニ  雪モフリマサルガ  コチガ身モ段々フルサガマサツテサ  次第ニ年ガヨツテイク  アヽコマツタモノヂヤ

340

雪降りて  年の暮れぬる  時にこそ  つひにもみぢぬ  松も見えけれ

遠鏡   今マデ露ヤ霧ヤ時雨ガフツテモ  松ハ色ガカハラナンダガ  ソレデモマダ此ウヘ  雪ガフツタラバ  モシ色ガカハルデモアラウカト思フタガ  今此ヤウニ雪ガフツテモ  ヤツハリ色ハカハラズニ  モウ年ガクレタカラハ  サテハトウ／＼シヾウ色ノカハラヌ松ヂヤト云コトモコヽデコソ見エタモノナレ

341

昨日と言ひ  今日とくらして  明日香河  流れて早き  月日なりけり

遠鏡   昨日今日明日ト云テ一日／＼トクラシテ  ツイモウ年ノクレニナツタヂヤ  アスカ川ノ水ノ早ウ流レテユクヤウニ  アヽサテ／＼早ウタツ月日ヂヤワイ

342

ゆく年の  惜しくもあるかな  ます鏡  見る影さへに  くれぬと思へば

遠鏡   年ノツモルニシタガウテ  次第ニ鏡デ見ル影マデガ  ツムリガ真ツ白ニナツテ面ハシワガヨツテ  此ノヤウニオイクレテイクト思ヘバ  サテ／＼暮テユク年ガマアヲシウ思ハルヽコトカナ

( 2003/01/18 )

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