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       年のはてによめる 春道列樹  
341   
   昨日と言ひ  今日とくらして  明日香河  流れて早き  月日なりけり
          
        昨日と言い、今日はまた今日と暮らして、明日香川、なんと早く流れて行く月日であることよ、という歌。詞書も含めて、このシンプルな駄洒落の歌には好感が持てる。 「昨日−今日−明日」は 「明日香河=飛鳥川」を目指し、時間の流れは川の流れに沿って "流れて早き  月日なりけり" と続く。わかりやすく覚えやすい歌である。一見 「明日−明日香河」の駄洒落がすべてであるように見えるが、作歌のポイントは字余りである先頭の "昨日と言ひ" にある。この立ち上げ方が成功しているから全体が緩まず、読む側の視点がぶれない。

  この歌と似た感じを受けるものとしては、羇旅歌に含まれる次の読人知らずの歌がある。

 
408   
   みやこいでて  けふみかの原  いづみ川  川風寒し  衣かせ山
     
        こちらも畳みかけるような駄洒落で、言葉の転がり方にリズムがあり、ふと気が付くと終わっているような言葉の乗せ方である。余韻などはないが、空の箱が風にあおられて転がって行くような軽さが感じられる。

  さて、この列樹(つらき)の歌は冬歌の最後から二番目の位置にある。確かに 「年のはて」と言えば冬だが、この歌を単独で見ると四季としての冬のイメージはない。そこでこの歌の前後の歌をあげておく。読人知らずの歌と冬歌を締めくくる貫之の歌である。

 
340   
   雪降りて  年の暮れぬる  時にこそ  つひにもみぢぬ  松も見えけれ
     
342   
   ゆく年の  惜しくもあるかな  ます鏡  見る影さへに  くれぬと思へば
     
( 2001/07/23 )   
(改 2004/03/13 )   
 
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