Top  > 古今和歌集の部屋  > 本居宣長「遠鏡」篇

  目次
  はじめに
  底本について
  凡例
  追記
  「古今和歌集遠鏡」端書
  「古今和歌集遠鏡」本文
  年表
  テキストデータ
  参考資料



  ■  はじめに
    「古今和歌集遠鏡」は本居宣長が古今和歌集を当時の口語によって訳したものである。江戸時代の言葉なので少し読みづらいが、現代語の感じで読んでも意味がまったくわからないということはない。例えば百人一首にも採られている193番の大江千里の歌は、

  「月見れば ちぢにものこそ かなしけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど」
  月ヲ見レバ オレハイロ/\ト物ガサ 悲シイワイ オレヒトリノ秋デハナケレド

のようになっている。はじめの印象は、口調が少し投げやりで当時の町の言葉だとそんなものかな、という感じだが、よく見ると「物ガサ」の「サ」が元の歌の「こそ」(強調の係助詞)に、「悲シイワイ」の「ワイ」が「けれ」(詠嘆の助動詞)に当てられていることがわかる。だからどうだということはないが、下駄の裏に付けられた飾りのようなもので、隠し味として面白い。

  この「遠鏡」篇は、その宣長の訳を手軽に読めるようにまとめ、また、一体宣長は何を考えてそれを著したのかということを、その端書(=序文)から見ることを目的としている。

  ■  底本について
    「古今和歌集遠鏡」(以下「遠鏡」)は寛政五年(1793)頃にその原稿が出来上がったといわれており、その時期は宣長の四度目の古今和歌集の講義の時期と重なるので、それと並行して作業が進められたものと考えられる。 「歌謡俳書選集四 古今集遠鏡」 (1927 藤井乙男 文献書院)の解題には次のような記述がある。

  遠鏡は寛政六年(宣長六十五歳)以前にその稿を脱したのだが、刊行せられたのはその歿後文化十三年、名古屋に於いてヾあつた。その後二十数年を経て山崎美成はこれに頭注を附して天保十四年江戸で之を刊行した。なほ明治以後本書の翻刻せらること数次に及び、なほ初学の間に行はれてゐる。

  ただ 
「本居宣長全集 第三巻」 (1969 大久保正 筑摩書房) の凡例および大久保正氏の解題によれば、本居宣長全集の底本は寛政九年(1797)の板本であるということなので、「遠鏡」が最初に刊行されたの寛政九年(1797)であろう。「歌謡俳書選集四 古今集遠鏡」ではその底本について「名古屋開板の美濃版六巻本」としか書かれていないが、上の解題から察するとそれは文化十三年(1816)のものかとも思われる。この間すでに約二十年も時間が経っているが、ベーシックな「遠鏡」の刊行本としては少なくとも次の二種類があることがわかる。

  ・寛政九年(1797) 尾張名古屋玉屋町 永楽屋東四郎 美濃版六冊本  (*1
  ・文化十三年(1816) 名古屋 美濃版六巻本

  そしてその後、山崎美成(よししげ)が頭注を付けた「頭書 古今和歌集遠鏡」が天保十四(1843)に江戸で刊行され、その版が明治(元年は1868)以降まで広く出版された、ということのようである。山崎美成がどのような人物であったかは、
「将軍と木乃伊」 (1999 永井義男 祥伝社) が参考になる。

    今このページは、その山崎美成の「頭書 古今和歌集遠鏡」(八冊の小本)を底本としている。「江戸書林 文渓堂丁子屋平兵衛」とあるが刊年の記載はない。( 画像 )
  部分によってかなり摺り具合が異なるので、かなり使い込まれた版木によるものであるように見える。
 
  明治時代に出版された「頭書 古今和歌集遠鏡」の例としては、国立国会図書館/近代デジタルライブラリーhttp://www.ndl.go.jp/)で明治二十六年の上下二冊本を閲覧することができる。そのタイトルに山崎久作頭書とあるのは、久作は美成の武士の身分を買った後の名前であり、「頭書」最後にも「山崎久作 頭書」と書かれているからである。

  ただこれはGIFあるいは高圧縮形式で295枚(コマ)もあり、2006年11月時点では目次がないため、少し不便である。そこで目安となるコマ位置をあげておく。

 内  容  該当コマ  内  容  該当コマ
 上巻表紙  001 - 002  下巻表紙  138 - 138
 端書  002 - 012  恋歌一  139 - 155
 仮名序  012 - 031  恋歌ニ  155 - 168
 春歌上  032 - 046  恋歌三  168 - 182
 春歌下  046 - 061  恋歌四  182 - 199
 夏歌  061 - 068  恋歌五  199 - 218
 秋歌上  068 - 084  哀傷歌  218 - 228
 秋歌下  084 - 099  雑歌上  228 - 245
 冬歌  099 - 105  雑歌下  245 - 262
 賀歌  105 - 110  雑体  262 - 279
 離別歌  110 - 121  大歌所御歌  279 - 285
 羇旅歌  121 - 127  墨滅歌  285 - 288
 物名  127 - 137  裏表紙  289 - 295
 
  
「歌謡俳書選集四」と比較すると、 横井千秋の序 は「頭書」側には付いておらず、底本にはある 山崎美成の序と跋 が明治二十六年の本では省かれている。また、底本で本文の傍線が欠けているところは、明治二十六年の「頭書」でも欠けていたりして、不完全な状態のまま広まっていることがわかる。

  底本の構成は次の通りである。


 
 一冊目   ・山崎美成の序(古今和歌集遠鏡頭書序)
  ・本居宣長の端書(古今集遠鏡端書)
  ・仮名序
  ・春歌上
 ニ冊目   ・春歌下
  ・夏歌
  ・秋歌上
 三冊目   ・秋歌下
  ・冬歌
  ・賀歌
  ・離別歌
 四冊目   ・羇旅歌
  ・物名
  ・恋歌一
 五冊目   ・恋歌ニ
  ・恋歌三
  ・恋歌四
 六冊目   ・恋歌五
  ・哀傷歌
 七冊目   ・雑歌上
  ・雑歌下
 八冊目   ・雑体
  ・大歌所御歌
  ・墨滅歌
  ・山崎美成の跋
 
  「遠鏡」ではもともと、真名序については省かれており、雑体の中のいわゆる「短歌」については、いくつかの語の横に訳が付いてはいるが全体の訳はない。そしてこのページで対象とするのは、上記の中から仮名序と墨滅歌を除いた部分である。仮名序と墨滅歌を省くのは、仮名序はそのまま読んだ方がわかりやすく、墨滅歌については「墨で消されている」ということの方重く見たいと考えているからである。
  また、このページでは「頭書」を底本にしながら、山崎美成の頭注は対象としていない。これは美成の頭注に興味を引くものが見つけられないことが主な理由である。では何故「頭書」なのか、ということになるが、それは江戸時代から明治時代にかけての町での古今和歌集の読まれ方の雰囲気を感じられるからである。極めて言えば、そのために美成の序と跋を提示したかったから、ということになる。
  よって、本居宣長の仮名序や墨滅歌の訳、あるいは美成の頭注を読みたい方は、上記の近代デジタルライブラリーの画像などを参照してほしい。


  ■  凡例
    「遠鏡」の本文は、訳が中心で注釈が付いていない歌も多い。そしてその注釈も「打聞よろし  余材わろし」などあまりにも簡潔で、これだけではどう「よろし」で何が「わろし」なのかわからない。そこでこのページでは「余材」と「打聞」についてふれられている部分については、その内容を併記した。「余材」は契沖の「古今余材抄」であり、「打聴(打聞)」は賀茂真淵の「古今和歌集打聴」のことである。

 
 
  (A)  「古今和歌集の部屋」の該当ページへのリンク。歌の詞書や作者を参照したい場合に。
           また、歌は底本の「頭書」ものではなく、「古今和歌集の部屋」のものと合わせた。
  (B)  下線の箇所はリンクではなく、「歌に出てくる言葉以外の訳」であることを意味し、「遠鏡」での傍線に
           あたる。「遠鏡」では傍線以外にもいくつかのマークがあるが、それらはこのページでは省略している。
           また、底本の傍線の引き方はかなりいいかげんなので、その位置については
「歌謡俳書選集四」
           もとにした。黒の文字は本居宣長の訳、ブルーの文字は本居宣長の注、緑の文字は横井千秋の注で
           ある。千秋の注はカッコでくくったが、そのカッコは底本にはない。また、注の部分でひらがなが続いて
           見分けづらいと思われる部分は太字にした。欄外に>>で書かれているものはメモである。
  (C)  「遠鏡」の注で触れられている「古今余材抄」の部分。 
「国文注釈全書 古今余材抄・尾張の家苞」
           (1909 室松岩雄編 国学院大学出版部) 
からの引用である。
  (D)  「遠鏡」の注で触れられている「古今和歌集打聴」の部分。嘉永二年の補刻版を元に 
「賀茂真淵全集
            第九巻」 (1978 鈴木真喜男 続群書類従完成会) 
を参考とした。  (*2
           (打聴関連リンク: 「古よみの部屋」


  ■  追記
    *1  九州大学附属図書館/「古今和歌集遠鏡」画像データベース 
      ( http://herakles.lib.kyushu-u.ac.jp/tokagami/ )
       で二種類の「遠鏡」が公開されている。そのうちの一つが寛政九年の版本である。 ( 2006/11/14 )

  *2  国立国会図書館/近代デジタルライブラリーhttp://www.ndl.go.jp/) で 「賀茂真淵全集」を
       閲覧することができる。 ( 2006/11/14 )


( 2005/01/06 )   
(改 2006/11/14 )