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       題しらず 読人知らず  
314   
   竜田川  錦おりかく  神無月  時雨の雨を  たてぬきにして
          
     
  • おりかく ・・・ 織り懸ける
  • たてぬき ・・・ 縦糸と横糸 (経緯)
  
竜田川は紅葉を錦に織り懸けている、神無月の時雨を縦糸と横糸にして、という歌で、冬歌の先頭にある。神無月は陰暦十月。 "おりかく" という言葉が少しわかりづらいが、散る紅葉を降ったり止んだりする時雨の糸で織りあげて自らの上にさらす、羽織るというイメージだろうか。 「かく」という言葉を使った歌の一覧については 483番の歌のページを参照。

  「竜田川」と 「(紅葉の)錦」の組み合わせが秋を思わせるが、古今和歌集の配列で言えば、284番の歌で「神なびの みむろの山に 時雨降るらし」としていた時雨が今目前にある、というつながりである。どことなく 「雨と降るとも 水はまさらじ」という 305番の躬恒の歌も思い出される。 「竜田川−紅葉の錦」と 「神無月−時雨」が一つの歌の中で秋と冬を引っ張り合っているような感じもする。

  ただ、「時雨」は次の読人知らずの恋歌では 「秋」を引き出すものとして使われているので、この綱引きはやや秋側が優勢か。

 
763   
   我が袖に  まだき 時雨の   降りぬるは  君が心に  秋や来ぬらむ  
     
        またこの歌は 284番の「竜田川 もみぢ葉流る 神なびの」という歌とよく似ており、片方は秋歌下に、もう片方は冬歌の先頭に置かれているので、気になるところである。そこで、古今和歌集での「神無月/時雨/秋/紅葉」の関係をまとめてみると次のようになる。
  • 「時雨」が 「神無月」と共にある場合は冬のイメージを表す ・・・ 1002番 / 1005番など
  • 「時雨」は「秋」と結びつくこともある ・・・  398番 / 763番 / 1003番など
  • 「時雨」が 「紅葉」と共にある場合は秋のイメージを表す ・・・  260番 / 820番 など
  • 「時雨」「神無月」「紅葉」が揃うと冬のイメージを表す ・・・  314番 / 840番 / 1010番 など
  つまり当然のことながら 「神無月」とあるとそれが強くて冬、「時雨」は一緒に使われている他の言葉によって秋のものにも冬にもなるという感じである。ただし、「神無月 時雨もいまだ 降らなくに」という否定形を使った 253番の歌のような変則的なものもある。 「時雨」を詠った歌の一覧は 88番の歌のページを参照。

  「竜田川」の歌の一覧については 302番の歌のページを、「錦」を詠った歌の一覧については 296番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/10 )   
(改 2004/03/07 )   
 
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