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       題しらず 読人知らず  
334   
   梅の花  それとも見えず  久方の  あまぎる雪の  なべて降れれば
          
     
  • あまぎる ・・・ 空を曇らす (天霧る)
  • なべて ・・・ 一面に (並べて)
  
梅の花があるのにあるように見えない、空を曇らす雪が一面に降っているから、という歌。躬恒の 40番の「月夜には それとも見えず 梅の花」という歌と近く、梅をはさんで 「雪」と 「月」とが花の白さの奪い合いをしているかのようである。

  "降れれば" は 「降れ+れ+ば」であり、「降る」の命令形+助動詞「り」の已然形+接続助詞「ば」で、ここで助動詞「り」は、332番などに出てくる 「降れ白雪」と同じで継続を表すものと考えられる。つまり、降りつつ積もっているという感じである。

  この歌では "あまぎる" という言葉が印象的であるが、古今和歌集の中でこの言葉を使った歌は他にはない。 "なべて" という言葉が使われている歌のうち、次の読人知らずの歌はこの歌と似た感じがあるが、そこでは秋の武蔵野を詠いながら、恋歌に分類されているのが不思議といえば不思議である。

 
821   
   秋風の  吹きと吹きぬる  武蔵野は なべて 草葉の  色かはりけり
     
        「なべて」という言葉が使われている歌を一覧にしてみると次の通り。

 
     
334番    あまぎる雪の  なべて降れれば  読人知らず
821番    なべて草葉の  色かはりけり  読人知らず
873番    さらばなべて  あはれと思はむ  源融
1096番    知るも知らぬも  なべてかなしも  読人知らず


 
        「久方の」という枕詞を使った歌の一覧は 269番の歌のページを参照。

 
( 2001/08/22 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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