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       題しらず 読人知らず  
122   
   春雨に  匂へる色も  あかなくに  香さへなつかし  山吹の花
          
     
  • あかなくに ・・・ 飽きることがないのに
  • なつかし ・・・ いとおしい
  
春雨に映えるその姿も見て飽きることがないのに、その香りさえいとおしく思える山吹の花、という歌。この歌で引っ掛かる点はやはり 「山吹にそんな香りがあるのか」ということであろう。

  "匂へる色"の 「匂ふ」は、その美しい姿をあらわしており、そこからの勢いで "香さへ" とつなげてしまったようにも見える。直前にある次の読人知らずの歌では、山吹の花を 「咲き匂ふ」と表現しているて、この 「匂ふ」も 「美しく輝く」という意味である。その歌の場合は、その 「匂ふ」から、香りのよい 「橘(たちばな)」という言葉を合わせているようだが、この 「春雨」の歌も、そこからの影響があるのかもしれない。 「春雨」を詠った歌の一覧は 88番の歌のページを、「匂ふ」という言葉を使った歌の一覧は 15番の歌のページを参照。

 
121   
   今もかも  咲き匂ふらむ   橘の  こじまのさきの  山吹の花  
     
        「あかなくに」という言葉を使った歌には他に 884番の「あかなくに まだきも月の 隠るるか」という業平の歌がある。 「あかず」という言葉を使った歌の一覧は 157番の歌のページを参照。 「〜なくに」という言葉を使った歌の一覧は 19番の歌のページを参照。

  また、「さへ」は 「〜ばかりでなく(さらに)」というニュアンスを表す副助詞で、次のような歌で使われている。似たような言葉である 「だに」を使った歌の一覧については 48番の歌のページを参照。

 
     
20番    明日さへ降らば  若菜つみてむ  読人知らず
82番    見る我さへ  しづ心なし  紀貫之
104番    心さへにぞ  うつりける  凡河内躬恒
122番    香さへなつかし  山吹の花  読人知らず
124番    底の影さへ  うつろひにけり  紀貫之
146番    ふるさとさへ  恋しかりける  読人知らず
190番    寝て明かすらむ  人さへぞうき  凡河内躬恒
191番    数さへ見ゆる  秋の夜の月  読人知らず
263番    行きかふ人の  袖さへぞてる  壬生忠岑
268番    花こそ散らめ  根さへ枯れめや  在原業平
280番    色さへにこそ  うつろひにけれ  紀貫之
281番    夜さへ見よと  照らす月影  読人知らず
299番    住む我さへ  旅心地する  紀貫之
304番    散らぬ影さへ  底に見えつつ  凡河内躬恒
328番    住む人さへ  思ひ消ゆらむ  壬生忠岑
342番    見る影さへ  くれぬと思へば  紀貫之
545番    秋の露さへ  置きそはりつつ  読人知らず
559番    岸による浪  よるさへ  藤原敏行
586番    かきなす琴の  声にさへ  壬生忠岑
618番    身さへ流ると  聞かばたのまむ  在原業平
621番    我さへともに  けぬべきものを  読人知らず
656番    夢にさへ  人目をもると  小野小町
657番    夢ぢをさへ  人はとがめじ  小野小町
756番    宿る月さへ  濡るるかほなる  伊勢
766番    夢ぢにさへ  おひしげるらむ  読人知らず
782番    言の葉さへ  うつろひにけり  小野小町
813番    時さへものの  かなしきは  読人知らず
854番    言の葉さへ  消えななむ  紀友則
960番    人のためさへ  かなしかるらむ  読人知らず
1003番    老いの数さへ  やよければ  壬生忠岑
1027番    山田のそほづ  おのれさへ  読人知らず
1078番    末さへよりこ  しのびしのびに  読人知らず


 
( 2001/11/12 )   
(改 2004/03/08 )   
 
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