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       題しらず 読人知らず  
20   
   梓弓  押してはるさめ  今日降りぬ  明日さへ降らば  若菜つみてむ
          
        春雨が今日降った、明日も降ればきっと若菜を摘めるだろう、という歌。 "若菜つみてむ" の 「てむ」は 「〜できるだろう」という可能のニュアンスを表す。

  「梓弓を押して張るで春雨」という力の入った駄洒落に妙な勢いがある歌である。そのくせ実際にすることは、若菜摘みであるというギャップが面白い。 "梓弓" はここでは枕詞として使われているだけだが、あたかも剛毅な父親が、若菜摘みを楽しみにして外の雨を眺めている小さい娘のために、わざと真面目な顔をして駄洒落を言っているような光景が浮かんでくる。

  この歌は、配列としては少し離れているが次の貫之の春雨の歌と合わせてみたい。

 
25   
   我が背子が  衣はるさめ    ふるごとに   野辺の緑ぞ  色まさりける
     
        「弓」を使った歌を一覧にしてみると次の通り。

 
     
20番    梓弓  押してはるさめ 今日降りぬ  読人知らず
115番    梓弓  はるの山辺を 越えくれば  紀貫之
127番    梓弓  春たちしより 年月の  凡河内躬恒
605番    白真弓  おきふし夜は いこそ寝られね  紀貫之
610番    梓弓  ひけば本末 我が方に  春道列樹
702番    梓弓  ひき野のつづら 末つひに  読人知らず
907番    梓弓  磯辺の小松 たが世にか  読人知らず
1078番    安達の真弓  我が引かば 末さへよりこ  読人知らず


 
        「さへ」を使った歌の一覧は 122番の歌のページを参照。

 
( 2001/07/23 )   
(改 2004/02/10 )   
 
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