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       題しらず 読人知らず  
201   
   秋の野に  道も惑ひぬ  松虫の  声する方に  宿やからまし
          
     
  • 松虫 ・・・ スズムシあるいはマツムシ
  
秋の野では草が茂り、帰る道もわからなくなってしまった、それならば人を 「待つ」という松虫の声のする方角に行って一夜の宿でも借りようか、という歌。

   "道も" の 「も」を "宿" とからめて、日が暮れたので、とみる解釈(本居宣長「古今和歌集遠鏡」「
此秋ノ野デ  モウ日モクレニ及ブ道モフミマヨウタホドニ」など)もある。ただ、この歌を 418番の業平の「かりくらし 七夕つめに 宿からむ」という歌と同種の軽口と考えれば、そこまで深く見る必要はないかと思われる。また、72番の「この里に 旅寝しぬべし 桜花」という歌の秋バージョンと見ることもできる。 "宿やからまし" の 「まし」は反実仮想の助動詞で、その 「まし」が使われている歌の一覧は 46番の歌のページを参照。

  この歌の "声する方" の 「方」は 「方向」であり、古今和歌集の中で出てくる 「方」のほとんどはその意味であるが、中には 「場所/方法」等に見た方がよいものもある。その一覧は次の通り。

 
     
201番    松虫の  声するに 宿やからまし  読人知らず
295番    我がきつる  も知られず くらぶ山  藤原敏行
405番    下の帯の  道はかたがた 別るとも  紀友則
458番    かの  いつから先に わたりけむ  阿保経覧
462番    行くのなき  我が心かな  壬生忠岑
466番    流れいづる  だに見えぬ 涙川  都良香
472番    白浪の  あとなきに 行く舟も  藤原勝臣
488番    思ひやれども  行くもなし  読人知らず
516番    枕さだめむ  もなし  読人知らず
525番    くらせる宵は  寝むもなし  読人知らず
610番    ひけば本末  我が  春道列樹
643番    今朝はしも  おきけむも 知らざりつ  大江千里
708番    思はぬ  たなびきにけり  読人知らず
814番    泣きても言はむ  ぞなき  藤原興風
910番    消えぬものから  寄るもなし  読人知らず
1003番    誰かは秋の  くる  壬生忠岑
1006番    よらむなく  かなしきに  伊勢
1007番    うちわたす  をち人に もの申す我  読人知らず
1023番    せむなみぞ  床なかにをる  読人知らず
1024番    恋しきが  方も方こそ ありと聞け  読人知らず
1043番    となりの  鼻もひぬかな  読人知らず


 
        「まつ虫」を詠った歌については 203番の歌のページを、「ゆくへ(行方)」を使った歌については 80番の歌のページを、「おほかた(大方)」については 879番の業平の歌のページを参照。

 
( 2001/11/01 )   
(改 2004/03/07 )   
 
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