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       題しらず 読人知らず  
72   
   この里に  旅寝しぬべし  桜花  散りのまがひに  家路忘れて
          
        この里で泊まってゆこうか、桜の花が散ってあたりが見えず家路を忘れたということで、という歌。

  散る花、あるいは紅葉で道を失う、というのは非常に一般的でそれだけではあまり面白味が感じられないが、例えばこの歌では 「春の雰囲気」があって、それが心を和ませる。

  「里に旅寝」ということからは、(情景としてはまだ日が高いかもしれないが)人の存在を表す柔らかな火の光が感じられ、 "旅寝" に向かうその方向は、 "家路" よりもさらに好ましい場所へと続く道のようである。その意味ではこの歌は幻想の中の歌であるとも言える。

  同じような春の情景に 「緑」の色が加わったものとしては次の貫之の歌がある。

 
116   
    春の野に  若菜つまむと  こしものを  散りかふ花に    道は惑ひぬ  
     
        また、394番の「山風に 桜吹きまき 乱れなむ」という遍照の歌や、最後にはたどる道ということで、349番の業平の「老いらくの 来むと言ふなる 道まがふがに」という歌も思い出される。

 
( 2001/11/19 )   
(改 2004/03/11 )   
 
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