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       題しらず 春道列樹  
610   
   梓弓  ひけば本末  我が方に  よるこそまされ  恋の心は
          
        "本末" とは弓の下(本)と上(末)のこと。木の根元が 「本」と枝葉の先が 「末」。腕を伸ばして弓を持ち、弦を引くとその両端がぐっと自分の方に寄ってくる、そのように引き寄せたい 「夜」ともなればいっそう恋心が増すことだ、という歌。 "まされ" は 「増さる」が 「こそ」の係り結びを受けて已然形になったものである。

  単純に 「寄る−夜」の掛詞を使っているものには、665番の清原深養父の「みるめのうらに よるをこそ待て」という歌があり、次の藤原敏行の歌のように浪に合わせているものもある。

 
559   
   住の江の  岸による浪  よる さへや  夢のかよひぢ  人目よぐらむ
     
        「弓」と 「寄る−夜」という組み合わせでは、少し前の 605番の「おきふし夜は いこそ寝られね」という貫之の 「白真弓」の歌があり、「梓弓−引く−末」ということでは読人知らずの次の歌がある。

 
702   
   梓弓    ひき 野のつづら  末 つひに  我が思ふ人に  ことのしげけむ
     
        また 「真弓−引く−末」としては、1078番の 「採物の歌」に「安達の真弓 我が引かば 末さへよりこ」という表現があり、おそらくこの列樹(つらき)の歌はそこからの発想であろう。 「弓」という言葉を使った歌の一覧は 20番の歌のページを参照。

  「方」という言葉を使った歌の一覧は 201番の歌のページを、「〜の心」という言葉を使った歌の一覧については、651番の歌のページを参照。

 
( 2001/09/07 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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