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       題しらず 読人知らず  
203   
   もみぢ葉の  散りてつもれる  我が宿に  誰をまつ虫  ここら鳴くらむ
          
     
  • まつ虫 ・・・ スズムシあるいはマツムシ
  • ここら ・・・ たくさん、しきりに
  
紅葉が散り積もり訪れる人もいないこの庭で、誰を待って 「まつ虫」がしきりにないているのでしょう、という歌。 "ここら鳴くらむ" という感じは、196番の 「いたくな鳴きそ」や 197番の 「明くるも知らず 鳴く虫は」と合わせて見たい。

  「まつ虫」の歌は 200番からこの歌まで四首が集められている。はじめの二つでは 「ふるさとは 
松虫の音ぞ」「松虫の 声する方に」と名詞として独立して使われているが、この歌と一つ前の読人知らずの歌では "誰をまつ虫"、「人まつ虫」と前の言葉と融合されている点が面白い。

 
202   
   秋の野に  人まつ虫の   声すなり  我かとゆきて  いざとぶらはむ
     
        「まつ虫」の歌をまとめ直しておくと次の通り。

 
     
200番    ふるさとは  松虫の音ぞ かなしかりける  読人知らず
201番    松虫  声する方に 宿やからまし  読人知らず
202番    秋の野に  人まつ虫の 声すなり  読人知らず
203番    誰をまつ虫  ここら鳴くらむ  読人知らず


 
        古今和歌集の配列でいえば、201番と 202番が 「まつ虫」の声を聞いて訪れる側の歌であるのに対し、この歌は待つ側から詠まれたもので、それにより男性−女性の対比が生まれ、単なる枯れ落ち葉ではなく "もみぢ葉" で覆われた密やかな場所が 「発見される前」の感じが演出されていると見ることもできる。 「ここら」という言葉を使った歌の一覧は 1062番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/01 )   
(改 2004/03/07 )   
 
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