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       題しらず 読人知らず  
1007   
   うちわたす  をち方人に  もの申す我  そのそこに  白く咲けるは  何の花ぞも
          
     
  • うちわたす ・・・ ずっと向こうの
  • をち方人 ・・・ 離れた所にいる人
  • もの申す ・・・ 尋ねる
  
そちらの遠くにおられる方にお聞きするが、それそこの白く咲いているのは何の花か、という歌。

  この歌は 「五・七・七/五・七・七」という 「旋頭歌」と呼ばれる形式のものである。 「五・七・七」の二回の繰り返しで、かたちとしてははっきりと二つに分かれているが、全体を一つのなだらかなものと見せるには、二つ目の 「五」が一番のポイントである。それは 「五・七・七」と走ってきた後の、向きを変えて走り出す時の初動である。また、三十一文字の 「五・七・五・七・七」という普通の和歌の形式を、 「五」を目安に 「五・七/五・七・七」と区切ってみると、旋頭歌のスタイルは前半の 「五・七」に 「七」を加えてバランスをとったものと見ることもできる。

  "うちわたす" と同じ接頭語の「うち」が使われている歌の一覧については 12番の歌のページを参照。 "をち方人" の 「方」という言葉を使った歌の一覧は 201番の歌のページを参照。

  "もの申す我" という言い方で自分の存在を示しているのは、相手がこちらの言葉がわかり、自分の種族の形式を理解するかをさぐっているような感じである。 「花」は女性の譬えのようであり、この歌には同じ旋頭歌で次のような返しが付いている。

 
1008   
   春されば  野辺にまづ咲く  見れどあかぬ花  まひなしに   ただ名のるべき    花の名なれや  
     
        最後の 「ぞも」は、「ぞ+も」という連語であり、詠嘆を込めた疑問を表す。 この 「ぞも」を使った歌には次のようなものがある。

 
     
33番    たが袖ふれし  宿の梅ぞも  読人知らず
241番    たが脱ぎかけし  藤ばかまぞも  素性法師
1007番    白く咲けるは  何の花ぞも  読人知らず


 
( 2001/10/22 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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