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       題しらず 読人知らず  
651   
   吉野川  水の心は  はやくとも  滝の音には  立てじとぞ思ふ
          
        吉野川の水の流れのように心はせくが、激しい流れのように音を立てる(噂になる)ようなことはしまい、という歌。 「滝」は 431番の歌などにある 「吉野の滝」。恋歌一にの 492番に読人知らずの「吉野川 岩切りとほし 行く水の」という歌があり、似たような内容だが、恋歌三というこの歌のある位置から考えると、関係ができて後の歌と考えられる。

  この歌では "水の心" という表現が気になるが、 649番の「みつとも言ふな あひきとも言はじ」という歌から連想すれば、「水(みづ)」には 「見つ」が掛けられて 「すでに一度相見た心はもう一度逢いたいとはやるけれど」というようにも見えるが、古今和歌集の他の歌で 「水−見つ」と掛けているものは見当たらず、これは無理なこじつけであるかもしれない。 「川−水−滝」のつながりだけと見ておいた方が自然か。

  ちなみに古今和歌集の歌の中で「〜の心」という言葉の使われ方を見てみると、以下のように 「人の心」という例が最も多い。

 
        [人の心]  
     
61番    人の心  あかれやはせぬ  伊勢
83番    人の心  風も吹きあへぬ  紀貫之
398番    人の心  知らぬまに  兼覧王
714番    人の心  いかがとぞ思ふ  素性法師
741番    人の心  荒れて見ゆらむ  伊勢
781番    うつりもゆくか  人の心  雲林院親王
787番    人の心  空になるらむ  紀友則
795番    人の心  花染めの  読人知らず
797番    人の心  花にぞありける  小野小町
798番    人の心  花と散りなば  読人知らず
801番    人の心  霜は置かなむ  源宗于
804番    人の心  秋し憂ければ  紀貫之
817番    人の心  見てこそやまめ  読人知らず
1038番    人の心  くまごとに  読人知らず
1050番    人の心  見てこそやまめ  平中興


 
        [もとの心]  
     
219番    もとの心  忘れざりけり  凡河内躬恒
886番    もとの心  忘られなくに  読人知らず
887番    もとの心  知る人ぞくむ  読人知らず


 
        [その他]  
     
53番    春の心  のどけからまし  在原業平
610番    よるこそまされ  恋の心  春道列樹
638番    いまはの心  つくからに  藤原国経
651番    水の心  はやくとも  読人知らず


 
        [詞書]  
     
410番    旅の心をよまむとて  在原業平
1014番    七月六日たなばたの心をよみける  藤原兼輔


 
( 2001/10/24 )   
(改 2004/01/05 )   
 
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