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       題しらず 紀貫之  
804   
   初雁の  鳴きこそ渡れ  世の中の  人の心の  秋し憂ければ
          
     
  • 初雁 ・・・ 秋になって渡ってくるはじめの雁
  
初雁が秋に鳴いて渡ってくるように、私はただ泣き続けています、この世の人の心の 「飽き」をつらく思うので、という歌。

  「世の中の人」とは、恋の相手を 「この世にいるあなた」という感じで言ったものだろうが、雁が上空を鳴いて飛ぶというイメージと "世の中の" という言葉の広さがよく合っている歌である。 「世の中の人の心」というフレーズを使った歌の一覧については 795番の歌のページを参照。 「心の秋」という表現は 820番の歌に 「心の秋に あふぞわびしき」というかたちで見られる。この歌は恋歌五に置かれているが、恋歌四にも 「初雁が鳴き渡る」ということを詠った次の大友黒主の歌がある。

 
735   
   思ひいでて  恋しき時は  初雁の    なきて渡ると   人知るらめや
     
        「初雁」を詠った歌の一覧は 735番の歌のページを参照。

  また、"初雁 鳴きこそ渡れ" からは次の恋歌一にある読人知らずの 「蝉と蛍」の歌が思い出され、秋歌上にある躬恒の 「雁がね」の歌は、ほとんどこの貫之の 「初雁」の歌と同じように見える。

 
543   
   明けたてば  蝉のをりはへ  なきくらし  夜は蛍の    もえこそわたれ  
     
213   
   憂きことを   思ひつらねて  雁がねの    鳴きこそわたれ   秋の夜な夜な
     

( 2001/10/05 )   
(改 2004/02/24 )   
 
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