Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十六

       式部卿のみこ閑院の五のみこにすみわたりけるを、いくばくもあらで女みこの身まかりにける時に、かのみこすみける帳のかたびらの紐にふみをゆひつけたりけるをとりて見れば、昔の手にてこのうたをなむかきつけたりける 読人知らず  
857   
   かずかずに  我を忘れぬ  ものならば  山の霞を  あはれとは見よ
          
     
  • かずかずに ・・・ 繰り返し
  • あはれ ・・・ いとおしい
  詞書の意味は 「式部卿のみこが、閑院の五のみこの所にずっと通っていたが、妻の閑院の五のみこが長く病むこともなく急に亡くなった時に、夫のみこがその住んでいた所の帳(とばり)に下げてあるかたびらの紐に文が結い付けてあるのを取って見ると、慣れ親しんだ筆跡でこの歌が書き付けられていた」ということ。

  「式部卿のみこ」は清和天皇の皇子の貞保親王、あるいは宇多天皇の皇子の敦慶親王か、とされており、「閑院の五のみこ」は、
「古今和歌集全評釈(下)」 (1998 片桐洋一  講談社 ISBN4-06-208753-7) では、光孝天皇の第五皇女の穆子内親王か、と推測されている。

  
幾度となく何かにつけて私のことを思い出してくれるのであれば、消えてゆく山の霞を愛しいものと見てください、という歌。悲しい歌で、詞書も含め、どことなく幽霊の話のようでもある。古今和歌集の配列からすると、一つ前の 856番の歌の 「白雲」と関連付けられて置かれているようである。また 「霞」の意味は異なるが、 999番番の藤原勝臣(かちおむ)の歌に「春霞 たちいでて君が 目にも見えなむ」というものがある。

  "あはれとは見よ" という言葉からは 867番の「草はみながら あはれとぞ見る」という読人知らずの歌が連想される。 「あはれ」という言葉を使った歌の一覧は 939番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/20 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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