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       題しらず 読人知らず  
106   
   吹く風を  鳴きてうらみよ  うぐひすは  我やは花に  手だにふれたる
          
        恨むなら、吹く風を鳴いて恨め、ホトトギスよ、この私は花に手さへふれただろうか、という歌。

  "鳴きてうらみよ" という言葉からは、今は鳴いていない状況と見えるが、この歌は言葉の勢いで流しているので、そうしたことはあまり関係がないだろう。 「鳴いてXXX」という歌としては、離別歌の385番の藤原兼茂の歌に「もろともに  なきてとどめよ  きりぎりす」という歌がある。 「だに」という言葉を使った歌の一覧については 48番の歌のページを参照。また、「吹く風」を詠った歌の一覧については 99番の歌のページを参照。

  同じ春歌下のすぐ近くには、この歌をより洗練させた感じの次の素性法師の歌がある。

 
109   
   こづたへば  おのが羽かぜに  散る花を   誰におほせて  ここら鳴くらむ
     
        この歌の場合、"我やは花に" の 「やは」は反語を表す。 「やは」は反語を表すものとして使われることが多いが、61番や 161番に出てくる 「やはせぬ」など、疑問と見た方が自然である場合もある。また 「やは」は 「や+は」という連語であるが、係助詞同士の連語の場合と終助詞同士の連語である場合があり、終助詞の連語の場合は詠嘆のニュアンスも含むことが多いとされている。

  「やは」を使っている歌を一覧にしてみると次の通り。

 
     
41番    色こそ見えね  香やは隠るる  凡河内躬恒
61番    人の心に  あかれやはせぬ  伊勢
82番    ことならば  咲かずやはあらぬ  紀貫之
106番    我やは花に  手だにふれたる  読人知らず
107番    我うぐひすに  おとらましやは  春澄洽子
161番    ほかになく音を  答へやはせぬ  凡河内躬恒
367番    人を心に  おくらさむやは  読人知らず
385番    秋の別れは  惜しくやはあらぬ  藤原兼茂
395番    かへすは花の  うきにやはあらぬ  幽仙法師
463番    秋くれば  月の桂の 実やはなる  源恵
512番    恋をし恋ひば  あはざらめやは  読人知らず
615番    命やは  なにぞは露の あだものを  紀友則
679番    見ずは恋しと  思はましやは  紀貫之
699番    なみに思はば  我が恋めやは  読人知らず
704番    枯れ行く君に  あはざらめやは  読人知らず
722番    そこひなき  淵やは騒ぐ  素性法師
786番    かけてのみやは  恋ひむと思ひし  景式王
835番    寝るが内に  見るをのみやは 夢と言はむ  壬生忠岑
839番    秋やは人の  別るべき  壬生忠岑
846番    照る日の暮れし  今日にやはあらぬ  文屋康秀
948番    世の中は  昔よりやは うかりけむ  読人知らず
972番    かりにだにやは  君がこざらむ  読人知らず
1035番    なればよりなむ  ものにやはあらぬ  凡河内躬恒
1037番    ことならば  思はずとやは 言ひはてぬ  読人知らず
1042番    まさしやむくい  なかりけりやは  清原深養父
1067番    山のかひある  今日にやはあらぬ  凡河内躬恒


 
( 2001/10/31 )   
(改 2004/02/24 )   
 
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