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       題しらず 読人知らず  
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   み吉野の  大川のべの  藤波の  なみに思はば  我が恋めやは
          
     
  • 大川のべ ・・・ 大きな川のほとり (大川の辺)
  • なみに ・・・ ありたいていに (並に)
  吉野の大きな川のほとりに咲く藤波の、という三句目までは「なみ」を導くための序詞で、歌の意味は、
普通に思っている程度だったなら、自分はこんなに恋しく思うことがあっただろうか、ということ。 "恋めやは" は 「こひ+め+やは」で、「恋ふ」の未然形+推量の助動詞「む」の已然形+係助詞「や」+係助詞「は」。 「やは」は詠嘆のニュアンスを含んだ反語を表す。

  万葉集・巻五858にある次の歌がベースにあると言われている。

    若鮎(わかゆ)釣る 松浦の川の 川波の なみにし思はば 我恋ひめやも

  ここでは 「川波」を 「藤波」とすることにより、「松浦の川」が 「み吉野の大川の辺」と岸に移されて、背後に 「川波」を見せるようになっており、これは異伝というより加工である可能性が高いように見える。その線で考えると 「松浦の川」が 「み吉野の大川」となっていることは 673番の歌が、「富士の高嶺の鳴沢」から 「吉野の川のたぎつ瀬」になっているのと似ているとも言えるだろう。 「やも」は 「やは」の古い形である。 「やは」を使った歌の一覧については 106番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/19 )   
(改 2004/02/11 )   
 
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