Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻二

       題しらず 読人知らず  
100   
   待つ人も  来ぬものゆゑに  うぐひすの  鳴きつる花を  折りてけるかな
          
        「ものゆゑ」という言葉は 「〜だけれど」という逆接の意味と、「〜だから」という順接の意味のどちらにも使われる。この歌の場合、 "来ぬものゆゑに" という部分はどちらに解釈しても、なんとなく意味が通ってしまうので判断が難しいが、(A)の逆接と見た方が自然か。

  (A) 「来ないのに」とした場合 (逆接)

    
待つ人が来るあてもないのに、ウグイスが楽しそうに鳴いていた梅の枝を折ってみました。
    けれど、そんなことをしても無駄なこと。折った梅の枝を挿した花瓶がポツンと置いてある。

  (B) 「来ないから」とした場合 (順接)

    待っている人が来ないので、ウグイスが楽しそうに鳴いていた梅の枝を折ってみました。
    けれど、こうして花を飾ってもウグイスのようにあの人が来てくれるわけもない。ただウグイスに
    意地悪をしてみたかっただけなのか、と自己嫌悪する。

  「ものゆゑ」という言葉を使った歌の一覧は次の通り。前に否定の助動詞「ず」があるとややこしいが、これらの歌はすべて逆接として使われていると思われる。似たような順接/逆接の判断がわかりづらい言葉に、147番の 「ものから」、19番の 「なくに」などがある。

 
     
100番    待つ人も  来ぬものゆゑ  読人知らず
231番    天の河原に  おひぬものゆゑ  藤原定方
232番    たが秋に  あらぬものゆゑ 女郎花  紀貫之
528番    さりとて人に  そはぬものゆゑ  読人知らず
620番    行きてはきぬる  ものゆゑ  読人知らず


 
        また、この 「うぐひす」の歌は春歌下にあって、次の読人知らずの歌の伏線のようになっている。

 
106   
   吹く風を  鳴きてうらみよ  うぐひすは   我やは 花に   手だにふれたる
     
        そして、この歌では 「花」を梅に特定してはいないが、「うぐひす−梅−折る」という明示的な歌としては、春歌上に次の二つの歌がある。

 
32   
   折りつれば   袖こそ匂へ  梅の花   ありとやここに  うぐひす の鳴く
     
36   
   うぐひすの   笠にぬふてふ  梅の花    折りて かざさむ  老いかくるやと
     

( 2001/09/05 )   
(改 2004/03/11 )   
 
前歌    戻る    次歌