Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十八

       題しらず 小野小町  
939   
   あはれてふ  ことこそうたて  世の中を  思ひはなれぬ  ほだしなりけれ
          
     
  • あはれ ・・・ 心を動かされた時の感嘆詞
  • うたて ・・・ 特別に
  • ほだし ・・・ 束縛する物 (手かせ・足かせの類)
  
「あはれ」と言う言葉こそが、特別、世の中のしがらみを断ち切れない私の足かせになっているのです、という歌。この歌の 「あはれてふこと」が何を指しているのかは漠然としていてはっきりしないが、「こと」は 「言」であろう。次のような読人知らずの歌が並べて置かれている。

 
940   
   あはれてふ   言の葉ごとに  置く露は  昔を恋ふる  涙なりけり
     
        これらの二つの歌は雑歌下に分類されているが、この小町の歌を、恋歌一に置かれている次の読人知らずの歌と並べて見ると、縛るものつながりで 「つかねを」(=束をまとめるための紐)と "ほだし" が対応しているようにも見える。

 
502   
   あはれてふ   ことだになくは  なにをかは  恋の乱れの  つかねをにせむ
     
        「〜てふ」という表現を持った歌の一覧は 36番の歌のページを、「うたて」という言葉を使った歌の一覧は 47番の歌のページを参照。

  また、「あはれ」という言葉は次のような歌で使われている。

 
     
33番    色よりも  香こそあはれと 思ほゆれ  読人知らず
37番    よそにのみ  あはれとぞ見し 梅の花  素性法師
136番    あはれてふ  ことをあまたに やらじとや  紀利貞
244番    我のみや  あはれと思はむ きりぎりす  素性法師
474番    立ち返り  あはれとぞ思ふ よそにても  在原元方
502番    あはれてふ  ことだになくは なにをかは  読人知らず
602番    つれなき人も  あはれとや見む  壬生忠岑
805番    あはれとも  憂しとも物を 思ふ時  読人知らず
857番    山の霞を  あはれとは見よ  読人知らず
867番    武蔵野の  草はみながら あはれとぞ見る  読人知らず
873番    さらばなべてや  あはれと思はむ  源融
897番    あはれあなうと  すぐしつるかな  読人知らず
904番    あはれとは思ふ  年のへぬれば  読人知らず
939番    あはれてふ  ことこそうたて 世の中を  小野小町
940番    あはれてふ  言の葉ごとに 置く露は  読人知らず
943番    あはれとや言はむ  あなうとや言はむ  読人知らず
984番    荒れにけり  あはれ幾世の 宿なれや  読人知らず
1001番    あはれあはれ  なげきあまり  読人知らず
1002番    あはれてふ  ことを言ひつつ 君をのみ  紀貫之
1003番    あはれむかしべ  ありきてふ 人麿こそは  壬生忠岑


 
( 2001/11/29 )   
(改 2004/02/25 )   
 
前歌    戻る    次歌