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       古歌たてまつりし時の目録の、その長歌 紀貫之  
1002   
    ちはやぶる  神の御代より  呉竹の  世よにも絶えず  天彦の  音羽の山の  春霞  思ひ乱れて
  五月雨の  空もとどろに  小夜ふけて  山郭公  鳴くごとに  誰も寝ざめて 唐錦  竜田の山の
  もみぢ葉を  見てのみしのぶ  神無月  時雨しぐれて  冬の夜の  庭もはだれに  降る雪の
  なほ消えかへり  年ごとに  時につけつつ  あはれてふ  ことを言ひつつ  君をのみ  千代にと祝ふ
  世の人の  思ひするがの  富士の嶺の  もゆる思ひも  あかずして  わかるる涙  藤衣  おれる心も
  八千草の  言の葉ごとに  すべらぎの  おほせかしこみ  まきまきの  中につくすと  伊勢の海の
  浦のしほ貝  拾ひ集め  取れりとすれど  玉の緒の  短き心  思ひあへず  なほあらたまの
  年をへて  大宮にのみ  久方の  昼夜わかず  つかふとて  かへりみもせぬ  我が宿の
  しのぶ草おふる  板間あらみ  ふる春雨の  もりやしぬらむ
          
     
  • 呉竹 ・・・ 中国産の竹。ハチクまたはマダケを指す。
  • 天彦 ・・・ 山彦・こだまのことで「音」にかかる枕詞
  • 五月雨 ・・・ 陰暦五月頃に降り続く雨
  • とどろ ・・・ 音が響き渡る様子
  • しぐれて ・・・ (時雨が)降って
  • はだれに ・・・ 斑に
  • 消えかへり ・・・ すっかり消えて
  • 時につけつつ ・・・ 折々に
  • おれる ・・・ 織る
  • すべらぎ ・・・ 天皇
  • まきまきの ・・・ 何巻もの
  • しほ貝 ・・・ 海中の貝 (潮貝)
  • 玉の緒 ・・・ 珠をつなぐ紐
  • 思ひあへず ・・・ 充分に考えが及ばない
  • 大宮 ・・・ 皇居
  • 板間あらみ ・・・ 屋根の板が荒れてすき間ができてしまっているため
  詞書にある「目録」とは、題名などを集めて記載したもので、この歌はそれに付けて提出したということであろう。
「古今和歌集全評釈(下)」 (1998 片桐洋一  講談社 ISBN4-06-208753-7) では「その長歌」とある「そ」は「序」の誤記ではないか、と述べられている。

  歌の内容は、収められている歌の内容の記述が続いた後、どれだけ自分が苦労したかという話で締め括っている。その後半の部分、「八千草の」以降のだけを抜き出してみると次のようなことを言っている。

 
     
様々な言葉ごとに、かたじけなくも仰せつかったことを胸に、何巻もの中に選び尽くそうと、
伊勢の海の貝を拾って取るように歌を集めてゆきましたが、
なにぶん玉の緒のように短く足らない自分の力では思うにまかせず、
それでも長い間、宮中に詰めて夜昼分かずに勤めましたのがこの結果でありますが、
結局のところ、その作業に追われて、かえりみもしなかった自分の家では
ノキシノブの生えた板屋根が隙間を広げ、降る春雨が漏れてはまいか、と思うにつけて、
同じような心配を、今この出来上りに、している次第でございます


 
        "我が宿の しのぶ草おふる 板間あらみ ふる春雨の もりやしぬらむ という終わり方がどことなくショボイ感じもするが、こうしたことも一つの型であり、自分がいかに低い地位にいて、それが不適切なのではなかろうか、ということをアピールをする必要もあったのであろう。前半の、歌の紹介をしていると思われる部分をまとめてみると次のようになる。

 
     
 −  ちはやぶる  神の御代より    
 −  呉竹の  世よにも絶えず    
 −  天彦の  音羽の山の    
 春  春霞  思ひ乱れて    
 夏  五月雨の  空もとどろに    
 夏  小夜ふけて  山郭公  鳴くごとに  誰も寝ざめて
 秋  唐錦  竜田の山の  もみぢ葉を  
 冬  神無月  時雨しぐれて    
 冬  冬の夜の  庭もはだれに  降る雪の  なほ消えかへり
 賀  君をのみ  千代にと祝ふ    
 恋  思ひするがの  富士の嶺の  もゆる思ひも  
 離別  あかずして  わかるる涙    
 哀傷  藤衣  おれる心も    


 
        ここで 「春」については、「音羽の山の−春霞−思ひ乱れて」というつながりで、「春霞−乱る」ということは 23番の「春の着る 霞の衣...山風にこそ 乱るべらなれ」という歌を連想させる。また 「夏」については、「思ひ乱れて−五月雨の−空もとどろに」ということで、「みだれて−さみだれの」という音のつながりがある。

 
( 2001/12/11 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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