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       寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 源当純  
12   
   谷風に  とくる氷の  ひまごとに  うち出づる浪や  春の初花
          
     
  • ひま ・・・ 隙間
  詞書にある「寛平の御時きさいの宮の歌合せ」は宇多天皇の時代に行なわれた歌合であり、「きさいの宮」(后の宮)とは宇多天皇の母である班子女王のことを指すと言われている。班子女王は桓武天皇の皇子である仲野親王の娘。歌合が行なわれた時期は、893年に編まれた「新撰万葉集」にこの歌合の歌があることから、それ以前のそう遠くない時期であろうとされている。古今和歌集の成立を 905年とすると、その約十年前に行なわれたものである。詞書にこの歌合の名があらわれる歌は古今和歌集に五十六首ある。

  源当純(まさずみ)は生没年不詳。源能有の五男で 896年従五位下、907年従五位上。古今和歌集に採られているのはこの一首のみ。

  歌の意味は、
谷風にとける氷の隙間ごとに、現われる波こそ春の初花である、ということ。氷が割れてそこここから顔を出す水の様子を 「初花」に譬えている。 "うち出づる" という言葉に春の勢いを感じる。また、「氷」「浪」という言葉から花の色の白さを自然と連想させ、それを 「谷風」がさらうというようにイメージの連結が見事である。 「浪の花」ということを詠った歌の一覧は 250番の歌のページを参照。

  「氷がとける」というつながりで、次の読人知らずの恋歌と合わせておきたい。

 
542   
   春たてば  消ゆる氷の   残りなく  君が心は  我に  とけなむ  
     
        "うち出づる" の 「うち」は 「打つ」という動詞からきた接頭語で、ちょっとした動作を表したり、言葉の勢いをつけたりするために使われる。それが使われている歌の一覧は次の通り。また、「うちはへて」(=ずっと)、「うちつけに」(=急に)の 「うち」は接頭語かどうか微妙だが並べておく。

 
        [接頭語:うち]  
     
12番    うち出づる浪や  春の初花  源当純
126番    春の山辺に  うちむれ  素性法師
137番    山郭公  うちはぶき  読人知らず
170番    うちよする  浪とともにや 秋は立つらむ  紀貫之
191番    白雲に  羽うちかはし 飛ぶ雁の  読人知らず
230番    秋の野風に  うちなびき  藤原時平
360番    声うちそふる  沖つ白浪  凡河内躬恒
539番    うちわび  よばはむ声に 山彦の  読人知らず
558番    恋わびて  うちぬるなかに 行きかよふ  藤原敏行
632番    よひよひごとに  うちも寝ななむ  在原業平
815番    人なき床を  うちはらひ  読人知らず
1005番    雲りもあへず  うちしぐれ  凡河内躬恒
1007番    うちわたす  をち方人に もの申す我  読人知らず
1073番    しはつ山  うちいでて見れば 笠ゆひの  読人知らず


 
        [うちはへて (うち延へて)]  
     
180番    七夕に  かしつる糸の うちはへて  凡河内躬恒
510番    伊勢の海の  海人の釣り縄 うちはへて  読人知らず
931番    咲きそめし  時よりのちは うちはへて  紀貫之


 
        [うちつけに (うち付けに)]  
     
162番    我うちつけに  恋ひまさりけり  紀貫之
444番    うちつけに  こしとや花の 色を見む  矢田部名実
848番    うちつけに  さびしくもあるか  源融


 
( 2001/12/10 )   
(改 2004/03/08 )   
 
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