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       朱雀院の女郎花あはせによみてたてまつりける 左大臣  
230   
   女郎花  秋の野風に  うちなびき  心ひとつを  誰によすらむ
          
        詞書にある 「朱雀院の女郎花あはせ」とは、898年の秋に宇多上皇が朱雀院で催した歌合のこと。朱雀院は現在の京都府京都市中京区壬生花井町にその跡地がある。この「朱雀院の女郎花あはせ」からは、この歌をはじめ秋歌上に七つ、物名に一つの歌が採られているが、現在残っている「亭子院女郎花合」(亭子院は宇多上皇のことを指す)には欠けているものもある。

  作者の左大臣(ひだりのおほいまうちぎみ)とは、藤原時平のこと。871年生れ、909年没。没年三十九歳。 901年に菅原道真を大宰権帥に左遷したことで有名。時平が左大臣、道真が右大臣に任じられるのは899年2月なので、この歌合はその前年の秋に行われたものであることがわかる。時平の歌としては、古今和歌集はあと一つ、次の歌が誹諧歌にある。

 
1049   
   もろこしの  吉野の山に  こもるとも  おくれむと思ふ  我ならなくに
     
        歌の意味は、秋の野風に吹かれてあちこちになびいているオミナエシは、誰にその一つの心を寄せるのだろうか、ということ。オミナエシが風に揺れる様子を女性の定まらない心に譬えたもので、 
509番の「心ひとつを 定めかねつる」という読人知らずの歌を男性側から見たものともいえるだろう。

  「野風」という言葉を使った歌は二つだけだが、まとめておく。 「山風」については 394番の歌のページを、 「秋風」については 85番の歌のページを参照

 
     
230番    女郎花  秋の野風に うちなびき  藤原時平
781番    吹きまよふ  野風を寒み 秋萩の  雲林院親王


 
        接頭語「うち」が使われている歌の一覧については 12番の歌のページを参照。

  オミナエシの歌は秋歌上にまとめられた歌群の他に、雑体の誹諧歌にも次の遍照の歌をはじめとする四首が集められている。

 
1016   
   秋の野に  なまめきたてる  女郎花   あなかしかまし  花もひと時
     

( 2001/09/06 )   
(改 2004/03/11 )   
 
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