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       春のはじめのうた 壬生忠岑  
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   春きぬと  人は言へども  うぐひすの  鳴かぬかぎりは  あらじとぞ思ふ
          
        春が来たと人が言っても信じない、ウグイスの声を聞くまでは、というまるで会話の一部を切り取ったような言い回しで、調べとしてはゆるやかなうねりが感じられる。壬生忠岑は生没年不詳。古今和歌集成立時には、右衛門府生であったと仮名序・真名序に書かれている。

  「春きぬと人は言ふ」というのは、暦上で立春が過ぎたのでそう言っているか、実際に人々が春の気配を感じて言っているのか、また、"あらじとぞ思ふ"という気持ちは、単にウグイスの声を聞かないと春がきた感じがしない、というだけなのか、あるいは飼い主の帰りを待っているペットの犬のようなかたくなさでウグイスの声を待っているのか、どちらにでも解釈できる。どちらがよいかと目くじらを立てるより、言葉の切れ端が漂っている感じを味わいたい。

  同じ 「あらじとぞ思ふ」と結ばれている歌としては、次の紀有常の歌や 539番の読人知らずの「答へぬ山は あらじとぞ思ふ」という歌がある。

 
419   
   ひととせに  ひとたびきます  君まてば  宿かす人も  あらじとぞ思ふ  
     
        「あらじ」という言葉を使った歌の一覧は 934番の歌のページを参照。また、「かぎり」という言葉を使った歌の一覧は 187番の歌のページを参照。

 
( 2001/09/18 )   
(改 2004/02/05 )   
 
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