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       けにごし 矢田部名実  
444   
   うちつけに  こしとや花の  色を見む  置く白露の  染むるばかりを
          
     
  • うちつけに ・・・ 急に
  矢田部名実(やたべのなざね)は生年不詳、900年(あるいは901年)没。 884年に文書生、897年少内記、899年大内記。古今和歌集に採られているのはこの物名の歌一首のみである。

  「うちつ
ケニ コシとやはなの」の部分に題の「けにごし」が含まれている。 「けにごし」(牽牛子)はアサガオのこと。

  歌の意味は、
急に花の色が濃くなったと見える、そこに置いた白露が染めているだけなのに、ということ。よく考えると意味がわかりづらい。 "とや" が疑問を表わすので、前半は反語として考えてよいだろう。 "染むる" は下二段活用の 「染む」の連体形で 「染める」という他動詞。花が自ら色を濃くしているわけではなく、白露という他力で濃くなって見えるだけだ、というニュアンスか。あるいは急に濃くなるわけはない、白露が染めているだけなのだから薄いのが当然、と言っているようにも見える。

  あるいは少し強引に推測してみれば、「牽牛子」から牽牛(=彦星)とし、 "こし" を 「来(こ)し」に掛けて、「急に濃くなるはずがないように、急に来るはずもない、「濃し−来し」と花の色が見えるのは、自分の涙が染めているだけなのだ」という織姫の歌という線も考えられなくもない。

  「うちつけに」という言葉を使った他の歌としては、次の近院右大臣(=源能有)の哀傷歌などがある。その一覧については 12番の歌のページを参照。

 
848   
   うちつけに   さびしくもあるか  もみぢ葉も  主なき宿は  色なかりけり
     
        「〜ばかりを」という言葉を使った歌には次のようなものがある。

 
     
444番    置く白露の  染むるばかりを  矢田部名実
463番    光を花と  散らすばかりを  源恵
860番    我が身も草に  置かぬばかりを  藤原惟幹


 
( 2001/12/05 )   
(改 2004/01/27 )   
 
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