Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻五

       竜田川のほとりにてよめる 坂上是則  
302   
   もみぢ葉の  流れざりせば  竜田川  水の秋をば  誰か知らまし
          
        紅葉が流れることがなければ 「水の秋」を誰が知ろうか、という内容で、歌の意味は取りやすく、250番の文屋康秀の「浪の花にぞ 秋なかりける」という歌を思い出させる。また、紅葉で有名な竜田川に対して "もみぢ葉の  流れざりせば"と詠い出すところは、業平の 53番や 349番の歌の詠いぶりにも通じるものがあるように思える。

  古今和歌集で詠まれている 「竜田川」(龍田川・立田川)は、現在の奈良県生駒郡斑鳩町を流れる竜田川の下流あたりと、それが大和川と合流して西に流れる大和川の一部(JR関西本線の三郷駅の少し西ぐらいまで)を指すとされている。 「竜田川」を詠った歌は、そのうち次の五つが秋歌下に収められている。

 
283   
   竜田川   もみぢ乱れて  流るめり  渡らば錦  中や絶えなむ
     
284   
   竜田川   もみぢ葉流る  神なびの  みむろの山に  時雨降るらし
     
294   
   ちはやぶる  神世もきかず  竜田川   唐紅に  水くくるとは
     
300   
   神なびの  山をすぎ行く  秋なれば  竜田川 にぞ  ぬさはたむくる
     
311   
   年ごとに  もみぢ葉流す  竜田川   みなとや秋の  とまりなるらむ
     
        「竜田川−もみぢ」という似たような道具立てを使いながら、それぞれに個性があり、古今和歌集の配列としても固めずに適当にバラしてふくらみを持たせている。その中にあって是則のこの歌は、大上段に構えた 294番の業平の歌と比べると派手さはないが、「水」という言葉の透明感をうまく利用していて、秋の哀しみまでも包み込んでいるような感じがする。

  「竜田川」を詠んだ歌を一覧にしておくと次の通り。竜田山を詠んだの歌の一覧は 108番の歌のページを参照。

 
     
283番    竜田川  もみぢ乱れて 流るめり  読人知らず
284番    竜田川  もみぢ葉流る 神なびの  読人知らず
294番    竜田川  唐紅に 水くくるとは  在原業平
300番    竜田川にぞ  ぬさはたむくる  清原深養父
302番    竜田川  水の秋をば 誰か知らまし  坂上是則
311番    竜田川  みなとや秋の とまりなるらむ  紀貫之
314番    竜田川  錦おりかく 神無月  読人知らず
629番    竜田川  渡らでやまむ ものならなくに  御春有輔


 
        "誰か知らまし" の 「まし」は反実仮想の助動詞で、その 「まし」が使われている歌の一覧は 46番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/15 )   
(改 2004/02/26 )   
 
前歌    戻る    次歌