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       題しらず 読人知らず  
483   
   片糸を  こなたかなたに  よりかけて  あはずはなにを  玉の緒にせむ
          
     
  • 片糸 ・・・ 縒り合わせる前の状態の糸
  • よりかけて ・・・ 縒って掛けて
  • 玉の緒 ・・・ 珠をつなぐ紐、あるいは命
  
片糸をこちらとあちらで撚って掛けても、それが合うことがなければ何を命をつなぐ太い絆と思いましょうか、という歌。お互いが "片糸" で、それぞれに自分の思いだけを相手に伝えても、実際に逢うことがなければ何にもならない、という感じか。

  「こなたかなた」という言葉は、379番の良岑秀崇の歌にも使われており、「此方彼方」で 「こちらとあちら」ということだが、「あちらこちらに方々」という意味もあり、そこから "こなたかなたに よりかけて" を 「あれこれと手を尽くして」と見る説もある(本居宣長「古今和歌集遠鏡」:「
余材打聞ともに。ニの句の注わろし。これはたゞさま/゛\として心をつくすことをたとへたる也。男女のこなたかなたをたとへたるにはあらず。」)。ただ、やはりこの歌の場合は 「こなたかなた」は自分と相手であった方が自然であるように思われる。

  また、「よりかく」という言葉は、恋歌という観点からすれば 「思いを懸ける」ということで、その後ろの "あはずは" で 「思いをかけて−(それでも)逢わない」ということを糸の譬えで表しているものであろう。 「書く」以外の意味の 「かく」という言葉が出てくる歌を整理してみると次の通り。

 
        [思ひ懸く]  
     
254番    もみぢ葉に 思ひはかけじ  うつろふものを  読人知らず
331番    冬ごもり 思ひかけぬ  木の間より  紀貫之


 
        [恋歌での「かく」 ]  
     
483番    片糸を こなたかなたに  よりかけて  読人知らず
487番    ゆふだすき ひと日も君を  かけぬ日はなし  読人知らず
593番    かり衣 かけて思はぬ  時の間もなし  紀友則
786番    かけてのみやは  恋ひむと思ひし  景式王
803番    秋の田の いねてふことも  かけなくに  兼芸法師


 
        [恋歌以外での「かく」 ]  
     
5番    梅が枝に きゐるうぐひす  春かけて  読人知らず
26番    青柳の 糸よりかくる  春しもぞ  紀貫之
27番    浅緑 糸よりかけて  白露を  僧正遍照
207番    たがたまづさを  かけてきつらむ  紀友則
225番    つらぬきかくる  くもの糸すぢ  文屋朝康
239番    なに人か 来て脱ぎかけし  藤ばかま  藤原敏行
241番    秋の野に たが脱ぎかけし  藤ばかまぞも  素性法師
314番    竜田川 錦おりかく  神無月  読人知らず
407番    わたの原 八十島かけて  こぎいでぬと  小野篁
855番    郭公 かけて音にのみ  なくとつげなむ  読人知らず


 
        古今和歌集の配列では、この歌から恋歌一の終わりにかけて69首、読人知らずの歌が続く。

 
( 2001/11/27 )   
(改 2004/01/22 )   
 
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