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       題しらず 紀貫之  
1010   
   君がさす  三笠の山の  もみぢ葉の色  神無月  時雨の雨の  染めるなりけり
          
     
  • 神無月 ・・・ 旧暦十月
  
あなたが差す笠のような三笠の山の紅葉の色、それは十月の、時雨の雨で染まったものです、という歌。 "三笠の山" の 「笠」に掛けて "君がさす" と言っているが、「着る」でないことからこれは大傘のことで、「三笠山の紅葉」に並行してこの笠が赤いイメージが寄り添う。それが十月の時雨に濡れているという趣向であろう。

   "染める" は「染め+る」で、四段活用の 「染む」の命令形(または已然形)+完了の助動詞「り」の連体形である。下二段活用の 「染む」の連体形である 「染むる」との違いは、四段活用の 「染む」は自動詞で 「色が付く」、下二段活用の 「染む」は他動詞で「色を付ける」。よって、「時雨の雨が染める」ではなく 「時雨の雨によって紅葉の色が染まる」ということになる。 「時雨」を詠った歌の一覧は 88番の歌のページを参照。

  また、「雨−笠−山−紅葉」を詠った歌としては、秋歌下に次のような忠岑の歌がある。

 
263   
    雨降れば  笠取り山の  もみぢ葉は   行きかふ人の  袖さへぞてる
     
        この忠岑の歌も最後の 「てる」が 「もみぢ葉が袖を照らす」のか 「もみぢ葉で袖が照る」あるいは 「もみぢ葉も袖も照る」のかわかりづらい。ただこの場合は四段活用の自動詞の 「照る」しかなく、他動詞の場合には 281番の読人知らずの歌のように「夜さへ見よと 照らす月影」となるので、「もみぢ葉が袖を照らす」ということはないだろう。

  同じ 「笠」という名前が付いている山だが、「笠取り山」は現在の京都府京都市伏見区にある醍醐山であり、「三笠の山」は現在の奈良県奈良市春日野町にある春日山 (別名:御蓋(みかさ)山)である。 「三笠の山」は406番の安倍仲麻呂の歌でも次のように詠われている。

 
406   
    天の原  ふりさけ見れば  春日なる  三笠の山 に  いでし月かも
     

( 2001/12/18 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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