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       題しらず 紀友則  
607   
   ことにいでて  言はぬばかりぞ  みなせ川  下にかよひて  恋しきものを
          
     
  • ことにいでて ・・・ 言葉に出して
  • みなせ川 ・・・ 水が地下に伏流として流れている川 (水無瀬川)
  
言葉に出して言わないだけだよ、水無瀬川のように、胸の奥ではずっと恋しく思っているけれど、という歌。 "下にかよひて" という部分が特徴的である。 「川」ということからは 「下にながれて」の方が素直なように思え、実際、「古今和歌集全評釈(中)」 (1998 片桐洋一  講談社 ISBN4-06-205980-0) によれば、伝為明筆六条家本など複数の伝本には「したにながれて」とあるようであるが、その一方で恋歌三の 661番には同じ友則の「下にかよひて 恋は死ぬとも」という「隠れ沼」の歌がある。並べてみると 「隠れ沼」と 「水無瀬川」が地下で繋がっているようにも見えて面白い。友則は、792番や 827番の恋歌に 「流れて」という言葉を使っているので意識して使い分けていたのであろう。

  ちなみに、古今和歌集の中で 「下に流れる」ということを詠った歌には次のようなものがある。

 
     
494番    下ゆく水の 下にのみ  流れて恋ひむ  読人知らず
530番    ながれて下に  もゆるなりけり  読人知らず
581番    涙のみこそ  下に流るれ  清原深養父
591番    下に流れて  恋ひ渡るらむ  宗岳大頼


 
        このうち、494番の読人知らずの歌と、591番の宗岳大頼(むねおかのおおより)の歌は、この友則の 「水無瀬川」の歌とかなりかたちが近いように思われる。他に 「水瀬川」を詠った歌としては、760番と 793番の二つの読人知らずの歌がある。

 
( 2001/12/04 )   
(改 2003/12/30 )   
 
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