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       題しらず 清原深養父  
581   
   虫のごと  声にたてては  なかねども  涙のみこそ  下に流るれ
          
     
  • ごと ・・・ ように
  
虫のように声を立てては泣かないけれど、涙がただただ、見えないところで流れます、という歌。

  "虫のごと" と言っているので、"なかねども" は 「泣かねども」と見てよく、"流るれ" は、その 
「泣かる」に音として合わせているのは確かだが、この歌の場合は、意味としては「流る−泣かる」と見ない方がすっきりとする。 「音に鳴く」という表現を使った歌の一覧については 150番の歌のページを参照。 「〜のごと」ではじまる歌としては、春歌下に次のような読人知らずの歌がある。

 
98   
   花のごと   世のつねならば  すぐしてし  昔はまたも  かへりきなまし
     
        この深養父の歌では 「水」や 「川」というイメージは添えられておらず、「下」は 「心の内で」と見ることもできるが、それだと実際には涙は出ていないことになるので、ここでは相手の見ていないひとり寝の床などで、声を立てず密やかに流す涙の歌と見ておきたい。 「下に流れる」という歌の一覧は 607番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/26 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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