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       題しらず 素性法師  
470   
   音にのみ  きくの白露  夜はおきて  昼は思ひに  あへずけぬべし
          
     
  • あへず ・・・ 持ちこたえられずに
  「音に聞く」というのは 「噂に聞く」ということで、
噂にだけ聞いてあなたを思っていると菊に置く白露のように夜は 「起きて」、昼は耐えられず消えてしまいそうな気持ちです、という歌。基本的には 「聞くー菊」と 「置く−起く」の二つの掛詞があるだけだが、細かい所にも工夫がある歌である。

  「白露」を中心として、上には菊を配して 「白菊の露」を思わせ、下には 「置く」を配して 「消ゆ」に備えている。 "思ひ" の 「ひ」は、露を消す太陽の「日」にもつながり、 「思ひに〜けぬべし」という部分は、 「思ひ消ゆ」(=気が滅入る)ということから 328番の忠岑の「住む人さへや 思ひ消ゆらむ」の 「白雪」の歌などを思い出させる。

  また、この歌の "夜はおきて 昼は思ひに" という部分は、「菊」と季節が少しずれるが、1030番の小野小町の「人にあはむ 月のなきには 思ひおきて」という 「熾(おき:=赤く燃える炭火)」の 
「火」に 「思ひ」の 「ひ」を掛けていると思われる歌も連想される。

  さらに、この歌では 「夜−昼」の対を 「起きる−思ひ消ゆ」に合わせているが、素性には 354番の「ふして思ひ おきて数ふる 万代は」という賀歌もあり、言葉遣いとしてどこか近いものを感じさせる。 「あへず」という言葉を使った歌の一覧については 7番の歌のページを参照。

  他に 「音にのみ聞く」という言葉を使った歌としては、「うためしける時に、たてまつるとてよみて、奥にかきつけてたてまつりける」という詞書を持つ次の伊勢の歌がある。

 
1000   
   山川の  音にのみ聞く   ももしきを  身をはやながら  見るよしもがな
     
        「音に聞く」という表現を持った歌を一覧にしてみると次の通り。

 
     
251番    吹く風の  音にや秋を 聞き渡るらむ  紀淑望
470番    音にのみ  きくの白露 夜はおきて  素性法師
473番    音羽山  音に聞きつつ あふ坂の  在原元方
482番    なる神の  音に聞きつつ 恋ひ渡るかな  紀貫之
678番    音にぞ人を  聞くべかりける  読人知らず
762番    吹く風の  音にも人の 聞こえざるらむ  読人知らず
1000番    山川の  音にのみ聞く ももしきを  伊勢
1003番    音羽の滝の  音に聞く  壬生忠岑


 
( 2001/12/07 )   
(改 2004/02/16 )   
 
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