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       題しらず 読人知らず  
762   
   玉かづら  今は絶ゆとや  吹く風の  音にも人の  聞こえざるらむ
          
     
  • 玉かづら ・・・ つる草の美称
  • たゆ ・・・ 絶える
  
つる草のように長く延びてゆくはずの二人の関係も、もはや絶えてしまったのか、風の噂にもあなたのことは聞こえてこないようです、という歌。

   「吹く風の音に聞く」という表現は 251番の貫之の秋歌に「吹く風の 音にや秋を 聞き渡るらむ」というものがある。 「吹く風」という言葉を使った歌の一覧は 99番の歌のページを参照。 「音に聞く」という表現を持った歌の一覧については 470番の歌のページを参照。

  他に "玉かづら" を使った歌としては、恋歌四に次の読人知らずの歌があり、そこでは「(いろいろな所に)這ふ」ものの譬えとして使われている。

 
709   
   玉かづら   はふ木あまたに  なりぬれば  絶えぬ心の  うれしげもなし
     
        その一方で、この 「吹く風」の歌では、「長く伸びる」ということの譬えとして使われており、それは 「末永く一緒にいようと誓った」というニュアンスであろうが、「すでに長く関係を持っていた」という意味にもとれる。

  また、草関係で 「関係が絶えて相手が来なくなる」という歌としては、 976番の「浮草の うきことあれや 根を絶えて来ぬ」という躬恒の歌が思い出されるが、それと比べるとこの歌の "聞こえざるらむ" の推量の助動詞「らむ」は前の疑問の助詞「や」に対して 「〜でしょうか」という理由の推測に使われているものの、どこかまだ残る気持ちを頼むような感じにも受け取れる。

  "聞こえざるらむ" と似た結びの歌としては、「聞こえこざらむ」という次の読人知らずの歌がある。

 
952   
   いかならむ  巌の中に  住まばかは  世の憂きことの  聞こえこざらむ  
     

( 2001/11/15 )   
(改 2004/02/12 )   
 
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