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       題しらず 紀貫之  
471   
   吉野川  岩波高く  行く水の  早くぞ人を  思ひそめてし
          
        吉野川の岩間に浪高く行く水のように、早くも激しく、あの人のことを思い染めてしまった、という歌。突然の恋の激しさを詠った歌である。

  "思ひそめてし" の「思ひそむ」は「思ひ初む」ともとれる。ここではベースを「染む」として、その前の「早く」からのつながりで「初む」も掛けられていると見ておく。また、「てし」は「て+し」で、完了の助動詞「つ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。 "早く" からの係り結びで「き」が連体形になっている。「〜してしまった」というニュアンスである。

  "岩波高く" と 「高く」に一旦振ってから "早くぞ人を" と「早く」に落としている所が、地味ながらうまい表現である。また、その間に "行く水の" と入れて、「高く−行く−早く」と「く」を連ね、最後は「し」で締めて、調べを整えている。歌全体としてはあまり印象に残らないが、言葉を揺らして楽しんでいる感じがあって面白い。

  「吉野川」以外の歌で、 "行く水" を詠った歌としては、次のような読人知らずの歌がある。 「行く水」を詠った歌の一覧は 522番の歌のページを参照。

 
522   
   行く水に   数かくよりも  はかなきは  思はぬ人を  思ふなりけり
     
793   
   みなせ川  ありて 行く水   なくはこそ  つひに我が身を  絶えぬと思はめ
     
        「思ひそむ」という言葉を使った歌には次のようなものがある。

 
     
471番    早くぞ人を  思ひそめてし  紀貫之
594番    なにしか人を  思ひそめけむ  紀友則
687番    思ひそめてむ  人は忘れじ  読人知らず
723番    紅の 初花染めの 色深く  思ひし心  読人知らず
760番    何に深めて  思ひそめけむ  読人知らず
1001番    あふことの まれなる色に  思ひそめ  読人知らず


 
( 2001/11/26 )   
(改 2004/03/06 )   
 
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