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       題しらず 読人知らず  
54   
   石ばしる  滝なくもがな  桜花  手折りてもこむ  見ぬ人のため
          
        "石ばしる"は「岩ばしる」と同じで石の上を水が勢いよく流れること。 「滝」や 「垂水(たるみ:=滝の歌語)」の枕詞とも言われる。そして、この歌の "滝" は上から下に落ちる、いわゆる 「滝」ではなく 「激しい川の流れ」と見た方がすっきりする。

  歌の意味は、
この激しい川の流れがなければいいのに、そうすればここに来て見られない人のために桜の花を折ってくるのに、ということ。折って手土産にできない残念さを、その場の雰囲気をうまく伝えながら詠っている。この歌の最後は "見人のため" だが、「見人のため」と詠っているのは、309番の素性法師の歌である。

  また、この歌で使われている「もがな」という言葉は、願望の終助詞「もが」に同じく願望を表す終助詞「な」がついたもので、古今和歌集の中では次のような歌に使われている。

 
     
54番    石ばしる  滝なくもがな  読人知らず
347番    君が八千代に  あふよしもがな  仁和帝
445番    ふりにしこの身  なる時もがな  文屋康秀
683番    みるめに人を  あくよしもがな  読人知らず
697番    ころもへずして  あふよしもがな  紀貫之
750番    我を思はむ  人もがな  凡河内躬恒
901番    さらぬ別れの  なくもがな  在原業平
950番    山のあなたに  宿もがな  読人知らず
965番    うきことしげく  思はずもがな  平貞文
1000番    身をはやながら  見るよしもがな  伊勢
1038番    立ち隠れつつ  見るよしもがな  読人知らず


 
        その他に 「な」がつかずに「もが」と使われている例が 540番と 1003番の歌にあり、「もが+も(+や)」という例が 1098番の歌にある。

 
( 2001/11/20 )   
(改 2004/02/06 )   
 
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