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       歌たてまつれと仰せられし時によみてたてまつれる 紀貫之  
25   
   我が背子が  衣はるさめ  ふるごとに  野辺の緑ぞ  色まさりける
          
     
  • 背子 ・・・ 女性が夫・恋人などを指して呼ぶ言葉
  
あの人の衣を張る、そんな春の雨が降るごとに、野辺の緑の色が濃くなってゆく、という歌。

 "我が背子が" の 「が」は 「の」という意味で、貫之が女性の立場に立って詠った歌である。衣を洗って張る(しわを伸ばす)という 「はる」に春雨を掛けている。また掛詞と言うには無理があるが、
 "ふる" が水分を切るために衣を振るという動作と縁語になっているようにも見える。

  春めいてくる景色を洗濯物と草の緑で表わした爽やかな感じの歌だが、"我が" といって女性形ではじめたわりには、やや "野辺の緑ぞ"の部分が重い感じもする。 「背子」という言葉を使った歌には他に次の二つの読人知らずの歌がある。

 
171   
   我が背子が   衣の裾を  吹き返し  うらめづらしき  秋の初風
     
1089   
   我が背子を   みやこにやりて  塩釜の  まがきの島の  松ぞ恋しき
     
        この二つの歌と比べてみると、貫之の歌は "衣はるさめ" というやや強引な駄洒落をはさむことで口当たりを滑らかにし、同時にあくの強さを出して歌の印象を強めていることがわかる。

  古今和歌集の配列から言えば、この歌の "色まさりける" は、一つ前の 24番の源宗于(むねゆき)の歌の「色まさりけり」を引き継いでいる。

 
( 2001/09/19 )   
(改 2003/12/30 )   
 
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