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       志賀の山越えに女のおほくあへりけるに、よみてつかはしける 紀貫之  
115   
   梓弓  はるの山辺を  越えくれば  道もさりあへず  花ぞ散りける
          
     
  • 梓弓 ・・・ ここでは弓に弦を張るの意味から春の枕詞
  詞書にある「志賀の山越え」は、比叡山の南にあった志賀寺(崇福寺:すうふくじ)へ参詣する山道のこと。 「女のおほくあへりける」は 「女(をうな)」が主語。歌はその女性たちを花に譬えているもので、雰囲気としては次の歌にも共通するものがある。

 
22   
   春日野の  若菜つみにや  白妙の  袖ふりはへて  人のゆくらむ
     
        歌の意味は、山を越えてくると目の前が開け、そこに避けきれぬばかりの花びらが舞い散ってきた、ということで、普通に見れば女性たちの華やかさを詠っているものだが、 "道もさりあへず" という言葉からは、少し邪魔、というニュアンスも感じられる。 404番の 「あかでも人に  別れぬるかな」という歌と同じ行程での歌と見ることもできるが、それと比べると相手が多数なので、その分歌が軽い感じがする。 「花ぞ散りける」という言葉を使った歌の一覧は 117番の歌のページを参照。

  貫之以外の 「志賀の山越え」の歌としては次の二つある。意図的に季節の違うものを選んだのかどうかはわからないが、並べて見ると面白い。

 
303   
   山川に  風のかけたる  しがらみは  流れもあへぬ  紅葉なりけり
     
324   
   白雪の  ところもわかず  降りしけば  巌にも咲く  花とこそ見れ
     
        「梓弓」という枕詞を使った歌の一覧は 20番の歌のページを、「あへず」という言葉を使った歌の一覧については 7番の歌のページを参照。

 
( 2001/07/17 )   
(改 2004/03/10 )   
 
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