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       題しらず 読人知らず  
664   
   山しなの  音羽の山の  音にだに  人の知るべく  我が恋めかも
          
     
  • 音にだに ・・・ 噂でさえも
  この歌は左注に「このうた、ある人、近江のうね女のとなむ申す」とある。

  
たとえ些細な噂としてでも、他人が知ることができるようなやり方で、私が恋をするものか、という歌。二句目までは 「音」を導くための序詞である。 「だに」という言葉を使った歌の一覧については 48番の歌のページを参照。

  「恋ひ+め+かも」で、「恋ふ」の未然形+意思を表す助動詞「む」の已然形+終助詞「かも」であり、この 「かも」は已然形に付いているので 「〜だろうか(そうではない)」という疑問を含んだ反語を表す。仮名序の最後の 「いにしへを仰ぎて、今をこひざらめかも」というのと同じ使い方である。

  「かも」という言葉は、大きく分けて係助詞(疑問の助詞「か」+詠嘆の助詞「も」の連語)として使われる場合と、終助詞として使われる場合があり、終助詞の場合は、さらに前に体言や連体形をとるケースと、この歌でのように已然形をとるケースがある。古今和歌集の歌の中での使われ方を見てみると次の通り。

 
        係助詞の「かも」(疑問の助詞「か」+詠嘆の助詞「も」):  疑問と詠嘆を表す

     
58番    誰しかも  とめて折りつる 春霞  紀貫之
121番    今もかも  咲き匂ふらむ 橘の  読人知らず
660番    たぎつ瀬の はやき心を  何しかも  読人知らず
909番    誰をかも  知る人にせむ 高砂の  藤原興風
1001番    たぎつ心を
 何し
かも
 誰にかも
 人をうらみむ
 読人知らず


 
        体言(連体形)+終助詞の「かも」:  詠嘆+疑問/感動を表す

     
102番    たなびく山の  花のかげかも  藤原興風
350番    滝の白玉  千代の数かも  紀惟岳
406番    三笠の山に  いでし月かも  安倍仲麻呂
642番    夜深くこしを  人見けむかも  読人知らず
912番    見まくのほしき  玉津島かも  読人知らず
1075番    たち栄ゆべき  神のきねかも  読人知らず


 
        已然形+終助詞の「かも」:  反語を表す

     
664番    人の知るべく  我が恋めかも  読人知らず


 
        この歌は単体で見ると 「相手に知られず恋をしよう」という歌にもとれるが、古今和歌集の中の置かれている位置からすると 「人」は他人という感じである。同じような 「人」の使い方は、632番の業平の「人知れぬ 我がかよひぢの 関守は」という歌などにある。また、"人の知るべく" という言葉を使っている歌としては 335番の小野篁の「香をだに匂へ 人の知るべく」という歌がある。

 
( 2001/09/26 )   
(改 2004/02/10 )   
 
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