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       もろこしにて月を見てよみける 安倍仲麻呂  
406   
   天の原  ふりさけ見れば  春日なる  三笠の山に  いでし月かも
          
     
  • 天の原 ・・・ 大空
  • ふりさけ見れば ・・・ 遠くを仰ぎ見れば
  
大空を仰げば、遠い春日の三笠の山に出ていたあの月が見える、という歌。百人一首にも採られていて有名な歌である。 「三笠の山」は現在の奈良県奈良市春日野町にある春日山 (別名:御蓋(みかさ)山)。

  安倍仲麻呂は 698年生れ(701年生れという説もある)、770年没。 716年遣唐使として唐に渡る。 753年に帰国しようとしたが暴風のためベトナムに漂着、結局唐に戻って一生を終えた。古今和歌集に採られている歌はこの一首のみ。この歌には次のような左注がついている。

 
     
このうたは、昔仲麿をもろこしにもの習はしにつかはしたりけるに、あまたの年をへて、え帰りまうでこざりけるを、この国よりまた使ひまかりいたりけるにたぐひて、まうできなむとていでたちけるに、明州というところの海辺にて、かの国の人、むまのはなむけしけり、夜になりて月のいとおもしろくさしいでたりけるを見てよめる、となむ語り伝ふる


 
        "春日なる" という言葉で的がしぼりこまれていて、メインは月であるものの、月によって山を詠んだ望郷の歌と見ることもできる。古今和歌集の配列では、羇旅歌の先頭にこの"天の原" (空)の歌を置き、続けて 407番の小野篁(たかむら)の 「わたの原」(海)の歌が置かれている。遣唐使として行った中国における仲麻呂の望郷の歌と、遣唐使関係のトラブルの罪により流される篁の歌というつながりでもある。

  他に 「天の原」という言葉を使った歌としては、恋歌四に次の読人知らずの歌があり、「三笠の山」は 1010番の貫之の旋頭歌でも詠われている。

 
701   
   天の原   ふみとどろかし  なる神も  思ふなかをば  さくるものかは
     
        「かも」という終助詞を使った歌の一覧については 664番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/04 )   
(改 2004/02/13 )   
 
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