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       さだときのみこの、をばの四十の賀を大井にてしける日よめる 紀惟岳  
350   
   亀の尾の  山の岩根を  とめておつる  滝の白玉  千代の数かも
          
     
  • 岩根 ・・・ 根が生えたように動かない大きな岩
  • とめて ・・・ 尋ねもとめて (尋む)
  
「亀の尾の山」の大きな岩を求めて落ちてゆく、滝の白玉はあなたの千代の数でしょうか、という歌。紀惟岳(これおか)は生没年不詳。古今和歌集にはこの一首のみ。

  詞書にある 「さだときのみこ」は清和天皇の第七皇子で陽成天皇の異母弟である貞辰親王。その叔母が誰であるかは不明。貞辰親王の名は 369番の紀利貞の歌の詞書にも 「さだときのみこの家にて、藤原のきよふが近江の介にまかりける時に、むまのはなむけしける夜よめる」として見える。 「大井」は現在の京都府京都市右京区の嵐山付近で、 312番の貫之の「小倉の山に 鳴く鹿の」という歌の詞書などにもある。

  この歌は 「亀の尾山(あるいは亀山)」近くでの賀歌として、長寿のシンボルの「亀」、ゆるぎない「岩根」を出して、その滝の水しぶきの「白玉」が "千代の数かも" と結んでいる。女性のための賀歌にしては前半がやや堅苦しい感じもあるが、最終的には白玉のイメージで挽回している。

  "滝の白玉" を詠った歌には 922番の在原行平の「こき散らす 滝の白玉 拾ひおきて」という歌があるが、この惟岳の歌ではその数の多さに着目し、次の読人知らずの 「浜の真砂」の歌を意識しているように見える。

 
344   
   わたつみの  浜の真砂を   かぞへつつ  君が千歳の  あり数にせむ  
     
        「かも」という終助詞を使った歌の一覧については 664番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/05 )   
(改 2004/03/13 )   
 
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