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       秋立つ日よめる 藤原敏行  
169   
   秋きぬと  目にはさやかに  見えねども  風の音にぞ  おどろかれぬる
          
     
  • さやか ・・・ はっきりと
  藤原敏行は生年不詳、没年は 901年または 907年とされる。 866年少内記、870年大内記、873年従五位下、882年従五位上、892年正五位下、896年従四位下、897年従四位上。古今和歌集にはこの歌を含め十九首が採られている。

  この歌は秋歌上のはじめの歌で、詞書にもあるように立秋の日の歌である。
秋になった兆しは、まだ目に見えないが、鳴る風の音の中にその気配を感じて驚いた、ということ。シンプルで透明感のある歌である。 「風の音におどろく」という部分が抽象的でわかりづらいが、次の貫之の哀傷歌と合わせてみると、単なる風の音では 「おどろく」には弱く、風鐸(ふうたく:=お堂の軒などにぶらさげる鋳物の鈴)などの響きと見てもよいような気がする。

 
849   
   郭公  今朝鳴く声に  おどろけば   君に別れし  時にぞありける
     
        また次の読人知らずの歌では、秋に鳴く鹿が 「目には見えない」けれど、その声が 「クリアに聞こえる」ということを詠っており、並べて見ると面白い。

 
217   
   秋萩を  しがらみふせて  鳴く鹿の  目には見えずて  
 音のさやけさ  
     
        ちなみに 「清か」(=はっきりとしている)ということを詠った歌には次のようなものがある。 「清し」という言葉を使った歌の一覧については 925番の歌のページを参照。

 
     
169番    秋きぬと  目にはさやかに 見えねども  藤原敏行
217番    鳴く鹿の 目には見えずて  音のさやけさ  読人知らず
289番    秋の月 山辺さやかに  照らせるは  読人知らず
845番    水の面に しづく花の色  さやかにも  小野篁
1082番    細谷川の  音のさやけさ  読人知らず
1097番    甲斐がねを  さやにも見しか  読人知らず


 
( 2001/12/10 )   
(改 2004/03/12 )   
 
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