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       雲林院にてさくらの花の散りけるを見てよめる 承均法師  
75   
   桜散る  花のところは  春ながら  雪ぞ降りつつ  消えがてにする
          
        桜が散っているこの場所は、春なのに雪が降ってしかもそれが消えづらくなっている様子である、という歌。散る桜を雪に見立てた点は 63番の業平の「明日は雪とぞ  降りなまし」という歌の延長のようで平凡だが、最後に "消えがてにする" と一押ししたところに多少の面白味がある。ただ消えづらく地面にしがみついているのは、散った桜の花びらではなく、作者の気持ちの方であろう。

  「花→雪」の逆の、つまり「雪→花」というパターンとしては、363番の「山下風に  花ぞ散りける」という貫之の歌がある。

  "消えがてに" は 「消え+がてに」であり、「がてに」は 「〜しづらい」という意味で、元々は 「かてに」であったものが濁音化したものと言われている。さらに 「かてに」は 「かて+に」であり、「〜できる」という意味を表す補助動詞「かつ」の未然形+打消しの助動詞「ず」の古い連用形「に」という連語である。「かつ」自体には否定の意味がないので、ここでの 「消え+がてに」の 「消え」は 「消ゆ」の未然形ではなく連用形である。

  「かてに」という言葉からは、 550番の「淡雪の たまればかてに くだけつつ」という読人知らずの歌が思い出される。その歌の場合も 「かてに」は 「できずに」という意味である。

  「がてに」という言葉を使った歌には次のようなものがある。

 
     
75番    雪ぞ降りつつ  消えがてにする  承均法師
120番    すぎがてにのみ  人の見るらむ  凡河内躬恒
154番    我が宿をしも  すぎがてに鳴く  紀友則
220番    ひとりある人の  いねがてにする  読人知らず
499番    君に恋ひつつ  いねがてにする  読人知らず
964番    などか我が身の  いでがてにする  平貞文


 
( 2001/11/12 )   
(改 2004/02/15 )   
 
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