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       さくらの花のさかりに、ひさしくとはざりける人のきたりける時によみける 読人知らず  
62   
   あだなりと  名にこそたてれ  桜花  年にまれなる  人も待ちけり
          
     
  • あだなりと ・・・ うつろいやすいと (徒)
  
浮気ものだと名が出ても、一年のうち稀にくるような人でもちゃんと待っていたのです、という歌。

  この歌は続く 63番の業平の返しとペアになっている贈答歌である。それからすると "年にまれなる人" は業平であるが、詞書では「ひさしくとはざりける人」としている。一方、この贈答歌のある 
「伊勢物語」第十七段では「年ごろ、をとづれざりける人の、桜のさかりに見に来たりければ」となっており、これを見ると、詞書が書かれた時点では「伊勢物語」(の原型)が存在していたように思われる。

  この贈答歌は恋歌に分類されていてもおかしくないが、同じ 「あだと名の立つ」という表現のある小野美材の 229番のオミナエシの歌(「あやなくあだの 名をやたちなむ」)も秋歌上にあるので、バランスはとれている。ちなみにこの歌が春歌上の62番目、美材のオミナエシの歌が秋歌上の61番目と、ほぼ同じ位置にあるのは単なる偶然であろう。

  「あだ」という言葉は次のような歌で使われている。

 
     
62番    あだなりと  名にこそたてれ 桜花  読人知らず
81番    枝よりも  あだに散りにし 花なれば  菅野高世
101番    咲く花は  ちぐさながらに あだなれど  藤原興風
229番    あやなくあだ  名をやたちなむ  小野美材
436番    あだなるものと  言ふべかりけり  紀貫之
467番    あだにはならぬ  たのみとぞ聞く  大江千里
615番    命やは  なにぞは露の あだものを  紀友則
722番    浅き瀬にこそ  あだ浪はたて  素性法師
824番    あだ人の  我をふるせる 名にこそありけれ  読人知らず
850番    花よりも  人こそあだに なりにけれ  紀茂行
860番    露をなど  あだなるものと 思ひけむ  藤原惟幹
1093番    君をおきて  あだし心を 我がもたば  読人知らず


 
( 2001/10/09 )   
(改 2004/02/24 )   
 
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