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       初瀬にまうづるごとに、やどりける人の家に、ひさしくやどらで、ほどへてのちにいたれりければ、かの家のあるじ、かくさだかになむやどりはある、と言ひいだして侍りければ、そこにたてりける梅の花を折りてよめる 紀貫之  
42   
   人はいさ  心も知らず  ふるさとは  花ぞ昔の  香に匂ひける
          
        百人一首にも採られていて有名な歌である。詞書の意味は、「初瀬の長谷寺に参詣する度に泊まっていた家に、しばらく無沙汰をしていて久しぶりに訪れてみると、その家のあるじが「こうしてちゃんと泊まるところはあるのに」と中から言うので、近くに立っていた梅の枝を折って詠んだ」歌ということ。

  歌の意味は、
あなたの心はどうかわかりませんが、この懐かしい場所の梅の花は昔どおりに香っています、ということであるが、よく考えてみると、待っていた宿の主人は、たまに来た貫之にこんなことを言われる筋合いはない。また話の筋からすると言葉の順は、「確かに宿はあるようですね、懐かしいこの梅も同じ匂いがしています、でもあなたの心はどうでしょうか」となるはずのものを、逆転させて "人はいさ 心も知らず" から始めている。全体からすると春の歌というより誹諧歌に近いような感じがする。

  また、この歌では相手の宿の主人が男か女かということがよく問題になるが、女性であると考えれば、業平は貫之より前の時代の人なので、貫之がこれを詠んだ時、次の贈答歌が念頭にあった可能性もある。

 
62   
    あだなりと  名にこそたてれ  桜花  年にまれなる    人も待ちけり  
     
63   
   今日こずは   明日は雪とぞ  降りなまし  消えずはありとも  花と見ましや
     
        「匂ふ」という言葉を使った歌の一覧は 15番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/09 )   
(改 2004/01/13 )   
 
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