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       歌たてまつれと仰せられし時によみてたてまつれる 紀貫之  
59   
   桜花  さきにけらしな  あしひきの  山のかひより  見ゆる白雲
          
     
  • かひ ・・・ 崖の間の狭まった空間 (峡)
  
桜花が咲いたようだな、山の間から見える白雲は、という歌。 "さきにけらしな" は 「咲き+に+けらし+な」で、「咲く」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+推量の助動詞「けらし」+詠嘆の終助詞「な」。 「けらし」は次のような歌で使われている。

 
     
59番    桜花  さきにけらし  紀貫之
501番    神はうけずぞ  なりにけらし  読人知らず
928番    老いにけらし  黒き筋なし  壬生忠岑


 
        桜を白雲と見たか、白雲を桜と見たか微妙なところであるが、遠景でぼんやり見える白いものを 「白雲」と言い、それを 「桜が咲きはじめたようです」と詠っているものか。 「白雲」を使った歌の一覧は 30番の歌のページを参照。この歌の後には、桜を雪と見る次の友則の歌が続く。

 
60   
   み吉野の  山辺にさける  桜花    雪かとのみぞ   あやまたれける
     
        桜と雲の組み合わせは古今和歌集では意外に少なく、この貫之の歌以外には 358番の躬恒の「山高み 雲ゐに見ゆる 桜花」の歌があるだけである。その代わりに 「霞」が使われている歌は多く、中でも "山のかひより 見ゆる" というこの歌の 「すき間から覗く感じ」を、貫之は次の恋歌で 
「霞」を使って表現している。

 
479   
   山桜    霞の間より   ほのかにも  見てし人こそ  恋しかりけれ
     

( 2001/12/10 )   
(改 2004/01/27 )   
 
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