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       題しらず 紀貫之  
475   
   世の中は  かくこそありけれ  吹く風の  目に見ぬ人も  恋しかりけり
          
        世の中というものはこのようなものだ、吹く風のように目に見えない人も恋しく思う、という歌。 「目に見ぬ人」とは、まだ逢ってもいない人ということ。 "世の中は かくこそありけれ" とは、大げさなようだが、「理屈に合わない苦しみがある」ということを言っているのだろう。

  恋歌五に読人知らずの次のような歌があるが、この貫之の歌の 「風」に 「音」(=噂)を聞くかどうかは微妙なところである。

 
762   
   玉かづら  今は絶ゆとや  吹く風の   音にも人の  聞こえざるらむ
     
        「吹く風」を詠った歌の一覧については 99番の歌のページを参照。

  また、 "恋しかりけり" という結び方は一般的で、他の歌にも使われていそうだが、古今和歌集の中ではこの貫之の歌だけにあり、代わりにそれをもう少しひねったものとして次のような読人知らずの歌がある。

 
546   
   いつとても  恋しからずは   あらねども  秋の夕べは  あやしかりけり  
     

( 2001/09/06 )   
(改 2004/02/24 )   
 
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