Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十一

       右近のむまばのひをりの日、むかひにたてたりける車のしたすだれより女の顔のほのかに見えければ、よんでつかはしける 在原業平  
476   
   見ずもあらず  見もせぬ人の  恋しくは  あやなく今日や  ながめくらさむ
          
     
  • 見ずもあらず ・・・ 見ていないということもない
  • あやなく ・・・ 無意味に/無駄に
  詞書の意味は、右近の馬場の 「ひをり」の日に、向かい側に立ててあった車の下簾からかすかに女の顔が見えたので詠んで贈った、ということ。 「ひをり」については古来から諸説あり不明である。
「例解 古語辞典 第三版」 (1993 三省堂 ISBN4-385-13327-1)では、「天皇の前で馬上から弓を射る儀式の直前に行なわれる試射」であるとしている。何にせよ、車で見物人が出るほどの催しがあったということである。

  歌の意味は、
見たとも言えず、見ないとも言えない人が恋しくて、今日はただ、訳もわからないまま物思いをして過ごそうかと思います、ということ。 この歌には次のような返しがついている。

 
477   
   知る知らぬ   なにか あやなく   わきて言はむ  思ひのみこそ  しるべなりけれ
     
        古今和歌集の恋歌は一から五まで三百六十首あるが、返しを持つものは上記のものを含めて九つしかない。集全体でも二十程度なので比率としては少なくはないが、もっとあってもよいような気がする。これは採るに足るものが少なかったためか、仮名序でいうところの 「あだなる歌、はかなき言」をむやみに採用しないという撰者たちの方針であったのか、どちらなのかはわからない。

  また、この歌で使われている "ながめくらさむ" が同じ業平の次の歌の中で 「ながめくらしつ」として出てくるが、そちらは 「眺め−長雨(ながめ)」と掛けて、よりけだるい雰囲気を醸し出しており、また別の角度からの 「ながめ」を見せている。

 
616   
   起きもせず  寝もせで夜を  明かしては  春のものとて    ながめくらしつ  
     
        「恋しくは」という言葉を使った歌の一覧は 285番、「あやなし」という言葉を使った歌の一覧は 
477番、「ながめ」という言葉を使った歌の一覧は 113番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/05 )   
(改 2004/02/23 )   
 
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