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       はつかりをよめる 在原元方  
206   
   待つ人に  あらぬものから  初雁の  今朝鳴く声の  めづらしきかな
          
        待っている人の声ではないが、今朝はじめて聞く雁の声には心を動かされた、という歌。 「めづらし」は 「目新しくてすばらしい」ということ。屏風絵のホトトギスを詠んだ友則の歌でも使われている。

 
359   
   めづらしき    声ならなくに   郭公  ここらの年を  あかずもあるかな
     
        半年振りに帰ってきた雁の声を 「めづらし」と感じるのは自然だが、それを "待つ人" に合わせているのが、この歌のポイントである。友則の歌からのホトトギスつながりで言えば 719番に 「人の秋」と詠ったものがあるが、そこからこの元方の歌も 「秋−飽き」の季節という背景を持っているように見える。その意味でこの歌は 「思ひくらしの  音をのみぞ鳴く」という 771番の遍照の恋歌に通じるものがある。自分が待っている人は全然訪ねてきてくれない、もし来てくれたらそれは 「めづらしき」ことであるほど放置されているわけである。

  さらに深読みすれば、「人−雁」の対比に "今朝" が入って 「夜−朝」の対比も加えられている感じもある。もう夜に恋人が訪れることは期待薄で、いつものように一人迎える朝、その空虚な時間帯に初雁の声を聞いた、ということが 「めづらしさ」を増幅しているようである。

  "待つ人" という言葉からは、100番の「待つ人も 来ぬものゆゑに」という歌や、34番の「待つ人の香に あやまたれけり」という歌が思い出され、また 「〜にあらぬものから」という言葉を使った歌としては、次の伊勢の歌がある。

 
741   
   ふるさとに  あらぬものから   我がために  人の心の  荒れて見ゆらむ
     
        "あらぬものから" の 「ものから」は、ここでは 「〜だけれど」という逆接表現で、それが使われている歌の一覧は 147番の歌のページを参照。また、「初雁」が詠われている歌の一覧は 735番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/25 )   
(改 2004/02/24 )   
 
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