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       仁和の中将の御息所の家に歌合せむとてしける時によみける 素性法師  
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   惜しと思ふ  心は糸に  よられなむ  散る花ごとに  ぬきてとどめむ
          
        詞書にある「仁和の中将の御息所の家」での歌合せについては不明。 108番の藤原後蔭の詞書にも出てくる。

  
惜しいと思う心は糸のように撚られればよいのに、そうすれば散ってゆく花ごとにその糸で抜いて留めておけるのに、という歌で、27番の僧正遍照の「浅緑 糸よりかけて 白露を」という歌から柳を抜いてアレンジしたような雰囲気を持つ。

  "よられなむ" は 「よら+れ+なむ」で 「撚るの未然形+るの未然形+願望を表す終助詞」であり、「る」は受身として 「撚られてほしい」と解釈されるのが一般的である。 「る」を可能と見て 「撚ることができてほしい」と見ることもできそうだが、歌の焦点はその糸を作ることよりも使うことにあるので、「誰かに撚って糸にして欲しいな」という気持ちで受身として見た方が自然かと思われる。

  また、 "とどめむ" は、散ろうとする花をそこに留めておきたいのか、手元に留めておきたいのか微妙である。 "散る花ごとに" という語感からは、今の風景を崩さずそのまますべて留めておきたい、というニュアンスが感じられるが、873番の源融(=河原左大臣)の「さらばなべてや  あはれと思はむ」という歌からの類推では、みな手元に残しておきたい、という感じにもとれる。恐らく歌の意味しているところは前者だろうが、後者の桜貝のネックレスのようなイメージも捨て難い。

 
( 2001/11/27 )   
(改 2004/03/03 )   
 
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